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吹奏楽ポップスの父 昭和大爆走!


第25回 ニュー・エイトの会(1)

 

 1978年に4回目の課題曲、ポップス変奏曲≪かぞえうた≫を書き、ここからしばらく僕の委嘱課題曲はお休みになります。

 次の5回目が、1989年、ポップス・マーチ≪すてきな日々≫です。僕としては、ひさしぶりの課題曲だったし、ある意味、ポップス課題曲の集大成みたいな意識で書きました。当時、作曲者のコメントとして「ショー・ミュージック的な雰囲気をもったマーチ」と述べたのも、そのせいです。かつて、アーニー・パイル劇場で演奏していた頃を「すてきな日々」として、振り返ったんです。トリオ(中間部)は「ミディアム・スウィング」で、ステージ・レビュー音楽そのもの。グリッサンドやシェイクもたっぷり入れたし、木管群の16分音符半音階スケールも6小節に増やしました。また、この曲も、やはり「速度指定」を入れなかったので、演奏団体によってかなりの時間差があります。

 この1989年も課題曲は4曲で、部門に関係なく自由に選択できました。幸い、この≪すてきな日々≫は人気抜群で、当時の全国大会出場86団体のうち、25団体が演奏してくれました。さらに、中学の部も含めた全部門から、この曲での金賞が出ました。


■「ニュー・エイトの会」誕生

 ところで、前回まで3回にわたって、僕のコンクールとのかかわりを述べてきましたが、平行して、もうひとつ、吹奏楽に関する新たな取り組みを行なってきました。それが「ニュー・エイトの会」です。

 課題曲の作曲者や、審査員としてあちこちのコンクール会場へ出向くようになって、いろんな作曲家と知り合いました。で、彼らと会場で一緒になると、必ず、帰りに呑み会になる。1970年代の初めころだったけど、その席で、「これだけ吹奏楽が盛んになってきたんだから、日本の我々も、もっと新しい吹奏楽曲を生み出さにゃあ、いかんのじゃないか」みたいな話で盛り上がっていた。たまには「日本の若者に、もっと正しい吹奏楽のあり方を伝えるべきだ」なんて、けっこうマジなことを言ったりしてね(笑)。

 でも、確かに当時の吹奏楽オリジナル曲というと、課題曲以外では、海外の作品ばかりでしたからね。課題曲もいいけれど、どうしたって時間制限があるし、技術的に、中高生が演奏できるレベルで書くしかない。吹奏楽は、もっと高度な表現ができるんじゃないかとも感じていた。だから、少々、欲求不満気味だったんだね。

 そんな連中が、ちょうど8人集まったので、なんとなく僕が幹事役みたいになって、作曲家集団「ニュー・エイトの会」を立ち上げたんです。

メンバーは、

齋藤高順(1924〜2004)
  航空自衛隊航空中央音楽隊長、警視庁音楽隊長。小津安二郎の映画音楽や、代表作≪ブルー・インパルス≫でおなじみ。課題曲≪輝く銀嶺≫(1971年)、≪オーバー・ザ・ギャラクシー≫(80年)。

桑原洋明(1941〜)
  代表作≪吹奏楽のための三つの断章≫ほか多数。課題曲≪吹奏楽のためのドリアン・ラプソディー≫(1977年)。

藤田玄播(1937〜)
  代表作≪天使ミカエルの嘆き≫、≪切支丹の時代≫ほか多数。課題曲≪若人の心≫(1977年、中小編成用)、幻想曲≪幼い日の思い出≫(79年)、そのほか補作や編曲多数。

岩河三郎(1923〜)
  代表作、行進曲≪虹と雪≫(1972年札幌オリンピック入場行進曲)ほか多数。課題曲、吹奏楽のための音詩≪南極点への序曲≫(1969年)、≪北海の大漁歌≫(80年)、≪サンライズ・マーチ≫(82年)。そのほか、合唱の世界でも有名。

川崎優(1924〜)
  代表作、祈りの曲第1≪哀悼歌≫、第2≪悲歌≫、第3≪広島の詩≫、行進曲≪進歩と調和≫(1970年、大阪万国博覧会開会式用)ほか多数。課題曲、行進曲≪希望≫(1963年)、吹奏楽のための小品≪ふるさとの情景≫(69年)、≪キューピッドのマーチ≫(83年)。

名取吾郎(1921〜92)
  代表作、交響的幻想曲≪ルソン≫、吹奏楽のための詩曲≪永訣の詩≫ほか多数。課題曲≪吹奏楽のためのアラベスク≫(1973年)、吹奏楽のための≪風の黙示録≫(90年)。

奥村一(1925〜91)
  代表作、ドラマチック・ファンタジー≪阿修羅像≫ほか多数。課題曲、行進曲≪太陽の下に≫(1971年)、≪青春は限りなく≫(79年)。

 以上に、僕を加えて8人。すべて、課題曲の経験者です。特に、齋藤さん、岩河さん、名取さん、川崎さん、奥村さんは、僕とほぼ同世代だったから、気が合った。

▲これが「ニュー・エイト」だ!(1970年代中ごろ)
(後列左から)桑原洋明、藤田玄播、岩河三郎、川崎優、名取吾郎
(最前)齋藤高順、(その後ろ)奥村一
※岩井氏がシャッターを押したので、ここには入っていない。



■第1回コンサート

 齋藤さんは僕の一歳下で、陸軍戸山学校の音楽隊出身だけど、運動神経が悪くてねえ(笑)。軍楽隊は文字通り「軍隊」だから、音楽以外に、軍事教練だってある。で、手榴弾を投げる訓練があったそうだけど、齋藤さんは、いくら投げても、すぐ目の前にポトリと落ちてしまう。「戦場だったら、いったい、何回戦死していたことか」なんて、自嘲して大笑いしていましたよ。

 彼は、映画音楽の世界、特に小津安二郎の映画で大活躍していたけれど、小津が死んでからは吹奏楽にも本格的に取り組むようになって、1970年に航空自衛隊の委嘱で書いた≪ブルー・インパルス≫が大人気となって、72年に、航空中央音楽隊の隊長に迎えられた。当時、民間から自衛隊の音楽隊長が誕生したということで、ずいぶん話題になったもんです。

 この齋藤さんが、ニュー・エイトの会では、親分肌だったね。僕が事務局長みたいな感じだった。ただ「作曲者集団」といっても、たいした縛りがあるわけでもなく、最初は「いい曲でもできたら、そのうち発表会をやろうか」くらいの雰囲気だったんですよ。

 ところが、意外と早く第1回の発表コンサートを開催することができました。当時、吹奏楽の作曲賞「笹川賞」を主宰していた日本船舶振興会や、ヤマハがスポンサー協力してくれることになりましてね。航空中央音楽隊も、齋藤さんが隊長だったんで、出演してくれるというし、東京佼成ウインドオーケストラも、僕のアレンジと指揮で始まったばかりの「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」を演奏してくれていた縁で、協力してくれることになった。こういうところは、吹奏楽界って、とても気さくで、いい人たちばかりなんです。

 曲は、1人1曲、新曲を持ち寄ったんだけど、せっかくだから8人の合作を作ろうということになった。メドレー・マーチ≪ニュー・エイト≫っていう曲です。全体のキーと、主な展開・分担だけ決めて、旋律をみんなに作ってもらい、僕が全体をつなげて仕上げました。

「こんなやりかたでマーチなんかできるのかねえ」なんて、みんな言ってたけど、これが意外といい曲になったんですよ。なぜか僕のところに、録音や楽譜が残っていないんだけど、どこかにないかなあ。

 で、とにかく第1回は、

●第1回 ニュー・エイトの会 オリジナルコンサート  
1974年7月13日、郵便貯金ホール
演奏:航空自衛隊航空中央音楽隊、東京佼成ウインドオーケストラ

1:吹奏楽のための組曲≪かくれ切支丹≫(岩河三郎)
2:わらべ歌を主題にした≪三つの小さな幻想曲≫(川崎優)
3:バンドのための組曲≪ラプソディー≫(奥村一)
4:劇的序曲≪バルナバの生涯≫(藤田玄播)
5:吹奏楽のための治承今様楽(桑原洋明)
6:交響的幻想曲(名取吾郎)
7:あの水平線の彼方に(岩井直溥)
8:組曲≪エメラルドの四季≫(斎藤高順)
9:8人の作曲者によるメドレー・マーチ≪ニュー・エイト≫

 と、いまから思えば、錚々たる顔ぶれと曲が揃いました。

  このうち、僕の≪あの水平線の彼方に≫は、いまにして思えば、「委嘱でない」、つまり自発的に作曲した、数少ない僕のオリジナル曲です。
 海をイメージした曲で、編成も大型だし、ハープも入れました。ラストのほうでは、奏者たちのヴォカリーズ(歌詞なしの歌声)もあります。「声」入りの吹奏楽曲としては、ほぼ先駆けだったんじゃないかなあ。

  この曲は、コンクール全国大会に登場した、唯一の僕のオリジナル作品です。1976年、岡山・倉敷グリーンハーモニー吹奏楽団(現・倉敷市民吹奏楽団グリーンハーモニー)の演奏です。このときが、彼らの全国大会初出場だったと思いますよ。銅賞でしたが、作曲家として、とてもうれしかったですね。82年にも、彼らは同じ曲でコンクールに挑んでいますが、このときは岡山県大会金賞でした。

 昨年、東京佼成WOが演奏してくれた僕の作品集CD『EVERGRREEN』でも、この曲の最新録音を入れました。

 最新録音といえば、この第1回コンサートで齋藤さんが発表した、組曲≪エメラルドの四季≫も、2006年に出たCD『ブルー・インパルス/斉藤高順吹奏楽作品集』 (航空自衛隊航空中央音楽隊)に、収録されています。<若狭湾の春><沖縄の夏><十和田の秋><オホーツクの冬>の4楽章構成で、とてもきれいな曲ですよ。

 ちなみに、この齋藤さんのCDには、ほかにも≪吹奏楽のためのコンチェルティーノ≫とか、≪自然への回帰≫といった曲が入っていますが、これらものちに「ニュー・エイトの会」で生まれた曲です。

 こうして、「ニュー・エイトの会」は、順調に滑り出しました。

【つづく】

 


 

【お知らせ】
第26回は、7月30日(木)正午〜 掲載予定
(毎月15日・30日=土日祝日の場合は、直前の平日=に掲載予定)
(BP編集部/富樫鉄火)

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その輝ける軌跡。巨匠、初の吹奏楽オリジナル作品集がついに登場!


『EVERGREEN 〜岩井直溥作品集〜』

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 日本音楽界の生き証人、岩井直溥の自作自演による吹奏楽オリジナル作品集。名アレンジャーとして名を馳せる氏の吹奏楽オリジナルといえば、70〜80年代にかけて綺羅星のごとく輝いたコンクール課題曲が有名だが、このアルバムではさらに自由曲として全国大会での演奏経験もあるオリジナル作品や、秘蔵の名曲も収録。岩井×TKWOのゴールデン・タッグによるこの記録は、日本吹奏楽にとって大いなる遺産となるであろう。

BPショップにて発売中 http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1548/

【収録曲】

編曲・作曲:岩井直溥(Naohiro Iwai) 【全曲】

1. シンコペーテッド・マーチ「明日に向かって」 【3:29】
   Syncopated March "Asuni-Mukatte"

2. ポップス・オーバーチュア「未来への展開」 【4:42】
   Pops Overture "Development toward the Future"

3. ポップス描写曲「メイン・ストリートで」 【5:01】 
   On Main Street

4. ポップス変奏曲「かぞえうた」 【5:09】 
   Pops Variation "Kazoeuta"

5. ポップ・コンサートマーチ「すてきな日々」 【4:24】 
   Pops March "Wonderful days"

6. Jump Up Kosei 21 【7:46】  

7. 詩曲「渚の詩」 【8:50】  

8. 響きかぎりなく 【7:02】 

9. あの水平線の彼方に 【11:38】

【ボーナストラック】

10.靴が鳴る/弘田龍太郎(arr.岩井直溥)

BPショップにて発売中 http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1548/

(2009.7.14)>>


■岩井直溥関連CD
■ニュー・サウンズ・スペシャル
■EVERGREEN〜岩井直溥作品集
■ベスト・ニュー・サウンズ・イン・ブラス100−ベスト吹奏楽II
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