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吹奏楽ポップスの父 昭和大爆走!


第24回 コンクール課題曲と審査員の日々(3)

 

 1976年に課題曲≪メインストリートで≫を書いて、翌77年は、僕の課題曲はお休み。
  この77年に、東海林修さんの課題曲≪ディスコ・キッド≫が生まれています。すでに東海林さんには、「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」にアレンジャーとして参加してもらっていましたから、吹奏楽に感度があったことは確かですが、しかし、課題曲に登場するとは誰もが思わず、みんなびっくりしていましたね。確か、誰だかに委嘱していたものの、間に合わなくて、急遽、東海林さんに声がかかったんじゃなかったかな。実に楽しい曲で、いまでも演奏され続けていますよね。先日の、TV「題名のない音楽会」でも、人気投票第1位になっていたね。


■≪ディスコ・キッド≫と≪若人の心≫

 東海林さんの業績は、それだけで1冊の本になるほど長くて多岐にわたっているけど、彼も、僕とまったく同じ、占領軍のキャンプやクラブで腕を磨いたんです。ジャズ・ピアニストとしてね。でも、僕がレコード会社の専属アレンジャーとなったのに対し、彼は、ナベプロ(渡辺プロダクション)という、芸能プロに所属したところが違っていた。自然と、歌謡ポップスのアレンジだけではなく、TV番組にも本格的に関わるようになった。中でも、NHKの「ステージ101」(1972〜73年)の音楽監修をつとめたのは、重要な仕事でした。ここでは、アレンジだけでなく、≪怪獣のバラード≫という名曲も作曲しています。のちに中学生が合唱コンクールなどで盛んに歌うようになる曲です。

  シンセサイザーにも早くから取り組んでいたせいか、ヤマハのエレクトーン・コンクール全国大会の審査員などもやってますよ。

 でも、「アレンジャー東海林修」を一般大衆が強烈に記憶したのは、1973年の沢田研二の大ヒット曲≪危険なふたり≫じゃないかなあ(作詞:安井かずみ、作曲:加瀬邦彦)。日本歌謡大賞の受賞曲です。あのギターの軽快なイントロ、ジュリー(沢田研二)が、両手を突き上げる決めポーズ部分のバックの迫力……同じアレンジャーとして、「うまいもんだなあ」と思いましたよ。

 そんな「歌謡ポップスの大ベテラン」が、吹奏楽コンクールの課題曲を書いたんですから、驚きでした。

 この年の課題曲は、実験的に、小編成部門用の課題曲が、別途発表されています。それが、藤田玄播さんの名行進曲≪若人の心≫です。この頃は、小編成部門(いわゆるB組やC組など)も、課題曲と自由曲を演奏していたんです。だけど、A組用の課題曲を小編成で演奏するにはキツイ団体もいるから、たまには、最初からB・C組用の小編成の課題曲があってもいいんじゃないか、との声が上がったような記憶があります。ですからこの曲は、全国大会では演奏されていません(B組やC組は全国大会がありませんから)。しかし、その後、小編成部門は、自由曲1曲だけを演奏する、との流れになったので、結局、小編成部門用課題曲って、これが最初で最後でした。

 これはとてもきれいないい曲でしたね。もしA組の課題曲になっていたら、多くの団体が演奏したと思います。中間部は、藤田さんの合唱曲≪地球を花で飾ろう≫のメロディーが使われています。だから、いまこの曲を演奏すると、よく、客席で歌詞を口ずさんでいるオジサン世代がいます。

 それと、コンクール全国大会の会場が普門館に定着したのが、この年からだったと思いますよ。

  そして翌1978年、全日本吹奏楽連盟は、創立40周年を迎えることになります。

▲来日中のジェイガーとイッパイ(1978年)

■アンコン開始とマクベス

 連盟の40周年記念ということで、この年から、アンコン(アンサンブル・コンテスト)が始まりました。超小編成のアンサンブルではありますが、開催システムは、コンクールとまったく同じ。地区大会→県大会→支部大会→全国大会。いわば、この年から、吹奏楽の全国規模イベントは、2つになったわけです。いまではもう、当たり前の行事になっていますが、こんな大きな催しを年に2回やるなんて、当時の連盟はたいへんだったと思いますよ。

 そしてもうひとつの記念事業が、アメリカの人気作曲家2人に、課題曲を委嘱したこと。
 それが、ジェイガーの≪ジュビラーテ≫と、マクベスの≪カント≫です。

 ジェイガーは、すでに交響曲第1番や、≪シンフォニア・ノビリッシマ≫≪ダイヤモンド・ヴァリエーションズ≫などで、日本では大人気の人でしたから、この課題曲≪ジュビラーテ≫も、多くの団体が演奏しました。いかにもジェイガーらしい、華やかで明るい曲でした。ちなみに、この年からは、課題曲の部門別はなくなり、どの部門も自由に選択できるようになっています。

 そしてもう1曲の、マクベス≪カント≫。マクベスも、すでに≪聖歌と祭り≫≪マスク≫などで知られる人気作曲家でした。

 ところが、この≪カント≫だけが、全国大会で演奏されなかったんです。まあ「演奏されなかった」という言い方は正確ではなくて、「≪カント≫を課題曲に選んだ団体で、支部大会でマル金を取れた団体がひとつもなかった」と言うべきなんでしょうけど。

 でも、あれは、確かに変わった曲でしたね。日本古謡の≪さくらさくら≫がモチーフの変奏曲風になっていて、奏者が「手拍子」を打つ部分などもある。分かりやすいジェイガーの曲に比べると、とっつきにくいムードがあったのも事実です。

 この年の課題曲は、そのほかに2曲。
 僕のポップス変奏曲≪かぞえうた≫と、上岡洋一さんの行進曲≪砂丘の曙≫です。


■ポップス変奏曲≪かぞえうた≫

 ≪かぞえうた≫は、僕の4回目の委嘱課題曲です。
 「ひとつとや」の歌詞で始まる、日本古来のわらべ歌(俗称「数え歌」)がモチーフ。それを「変奏曲」にしました。

 前奏で数え歌の主題を提示し、以後、リズムを変えながら、フリューゲル・ホーン(またはトランペット)のソロ、ボサノバ、3拍子のバラード調、ロック……と「変容」していく曲です。

 実は僕は、この曲のスコアには「速度指定」を書きませんでした。とにかく演奏者に「自由な解釈」をしてほしかったんです。だからコンクールでは、遅い演奏もあれば、すごく速いスピード感満点の演奏もあって、楽しかったですね。確か、最速団体と最遅団体とでは、40秒近い違いがありました。音楽で「40秒」の差って、ものすごく大きいですよ。

 後年、ある団体の指導者から、「あの年、うちは、長めの自由曲を選択したので、≪かぞえうた≫を速めに演奏することで時間を確保できた。ありがたい曲でしたよ」なんていわれたことがある。別にそんなつもりで「速度指定」を書かなかったわけじゃないんだけどね(笑)。

 でも、昨年、東京佼成ウインドオーケストラの演奏で、僕の指揮で出した自作集CD『エヴァーグリーン』での演奏は、さらに遅い。思い切りじっくり演奏したからね。おそらく史上最遅演奏でしょう。

 ≪かぞえうた≫は、全部門を通じて15団体が演奏してくれて、5団体が金賞を獲得しましたが、やはりこの時も、中学の部から金賞は出ませんでした。やはり、"大人の味"が立ちはだかったんでしょうかねえ。

 ちなみに≪かぞえうた≫では、忘れられない思い出があります。
 コンクール直後、この曲を知ったヨーロッパのある楽譜出版社が、とてもいい曲だと面白がってくれて、出版したいといってきたんです。僕の課題曲がヨーロッパで演奏されるなんてうれしいことだから、もちろんOKを出しました。

 ところが、その後、何も言ってこないし、契約書も楽譜のゲラも何も来ないんで「ああ、ボツにされちゃったんだなあ」と、あきらめてたんですよ。

 なのに、しばらくしたら、堂々と、向こうで出版されてるじゃないですか。もちろん抗議しましたけど、ナシのつぶて。あまりにあっけらかんとしてるんで、あきれてものもいえませんでしたね。


■ジェイガー来日

 1977年は、課題曲≪ジュビラーテ≫の作曲者ジェイガーが来日して、ずっと一緒に過ごしました。確か、マクベスも来ていたはずですけど、全国大会の会場にいたのかなあ。自分の課題曲がまったく演奏されなかったんだから、かわいそうな話だよねえ。

 ジェイガーは、来日中、東京佼成ウインドオーケストラのコンサートを指揮したりして、僕も同行していました。彼は、夫人同伴でした。

 で、確か佼成のコンサートのリハーサルのときだったと思うけど、彼、奥さんを、指揮台のすぐ横に座らせるんだ。いったい、何を始めるかと思ったら、その奥さんのほうをデレデレ見ながら≪シンフォニア・ノビリッシマ≫を指揮するんだね。あの曲は、新婚間もない奥さんに捧げた曲だそうで、だから、演奏するときも、まさに「妻のために演奏する」といいたいらしい。なんというキザな野郎かと、仰天した。

 あれ以来、名曲≪シンフォニア・ノビリッシマ≫を聴くたびに、奥さんを横に座らせてうれしそうに指揮するジェイガーの姿が頭に浮かんで、どうも、素直に聴けないんだ(笑)。

【つづく】



 

【お知らせ】
第25回は、7月15日(水)正午〜 掲載予定
(毎月15日・30日=土日祝日の場合は、直前の平日=に掲載予定)
(BP編集部/富樫鉄火)

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 日本音楽界の生き証人、岩井直溥の自作自演による吹奏楽オリジナル作品集。名アレンジャーとして名を馳せる氏の吹奏楽オリジナルといえば、70〜80年代にかけて綺羅星のごとく輝いたコンクール課題曲が有名だが、このアルバムではさらに自由曲として全国大会での演奏経験もあるオリジナル作品や、秘蔵の名曲も収録。岩井×TKWOのゴールデン・タッグによるこの記録は、日本吹奏楽にとって大いなる遺産となるであろう。

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【収録曲】

編曲・作曲:岩井直溥(Naohiro Iwai) 【全曲】

1. シンコペーテッド・マーチ「明日に向かって」 【3:29】
   Syncopated March "Asuni-Mukatte"

2. ポップス・オーバーチュア「未来への展開」 【4:42】
   Pops Overture "Development toward the Future"

3. ポップス描写曲「メイン・ストリートで」 【5:01】 
   On Main Street

4. ポップス変奏曲「かぞえうた」 【5:09】 
   Pops Variation "Kazoeuta"

5. ポップ・コンサートマーチ「すてきな日々」 【4:24】 
   Pops March "Wonderful days"

6. Jump Up Kosei 21 【7:46】  

7. 詩曲「渚の詩」 【8:50】  

8. 響きかぎりなく 【7:02】 

9. あの水平線の彼方に 【11:38】

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10.靴が鳴る/弘田龍太郎(arr.岩井直溥)

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(2009.8.28)>>


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■ベスト・ニュー・サウンズ・イン・ブラス100−ベスト吹奏楽II
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