吹奏楽マガジン バンドパワー 吹奏楽マガジン バンドパワー
吹奏楽ポップスの父 昭和大爆走!


第21回 「バンドジャーナル」付録楽譜のポップス


  前回までに「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」(NSB)の話をして、それが、僕の吹奏楽ポップス・アレンジの大きな仕事のひとつとなったことを説明しましたが、実は、もうひとつあります。月刊誌「バンドジャーナル」(音楽之友社発行)の付録楽譜です。この仕事も、けっこう古くからやってるんですよ。

 昨年夏に、その「バンドジャーナル」(BJ)が、創刊50周年を迎えるにあたって、8月号で僕の付録楽譜についてのインタビューをしてくれました。聞き手は国塩哲紀さん(東京オペラシティ文化財団)。編集長の大高達夫さんも同席してくれて、僕自身も忘れていたようなことを、あれこれと思い出させてくれました。
 今回は、そのとき「思い出させてくれた」ことを中心に、お話したいと思います。


■第一弾は《ジェンカ》

 「BJ」の創刊は1959年10月号。古いよねえ(笑)。佼成吹奏楽団(現・東京佼成ウインドオーケストラ)の創設が翌年だから、その歴史がわかるでしょう。
 その後、吹奏楽専門誌としては「バンドピープル」もあったけど、もうなくなっちゃったね。

 あ、ごめんごめん、このウェブマガジン「バンドパワー」が、それを継いでいるのか(笑)。
しかし、とにかくいまでは、「BJ」が、唯一の吹奏楽専門誌として、がんばっているわけです。

 「BJ」に付録楽譜が付いているのは、みなさんご存知でしょうけど、もう創刊のころから付録楽譜は付いていました。創刊号は、行進曲《若い力》。秋さん(秋山紀夫さん)の編曲です。最初のころは、秋さんがずいぶんたくさん編曲しています。カネビン(兼田敏)や、藤田玄播さんなんかもよく書いてたね。曲は、ほとんどがマーチか、クラシック小曲だった。

 僕が、そこでポップス・アレンジをやるようになったのは、実は「NSB」よりも古くて、1967年から。
 きっかけは、「NSB」と同じく、「静岡市民バンド コンセール・リベルテ」です。現存する、ほぼ最古の市民バンドですね(詳細、第19回参照)。

 ここに、ポップス・アレンジ譜を提供していたんですが、このことが「BJ」編集部に伝わって、「コンセール・リベルテだけで演奏するのはもったいないから、BJ付録にしたらどうか」という話になった。それがきっかけです。

 その第一弾が、1967年9月号の《ジェンカ》。

 この曲、いまの若い人、知ってるかなあ。富樫さんや小太郎さんは、当然、知ってますよね?(ハイ!) もしかしたら、30歳以下くらいになると、もう知らないかもね。フォークダンスの大ヒット曲です。資料を見ると、作曲者名が「ラウノ・レティネン」となっていたり、「フィンランド民謡」となっているのもある。

 とにかく1960年代初頭にフィンランドで流行しだした曲で、瞬く間に世界中で歌われた。
 日本では、永六輔作詞、坂本九の歌で、《レット・キス(ジェンカ)》と題してカバーされて、これまた大ヒットになった。

 これは「フォークダンス」といっても、実に単純な踊りで、前の人の肩に両手を置いて、全員で「輪」をつくる。そして音楽に合わせて、足を片方ずつ前に出し、次に両足ジャンプで前に行ったり後ろに行ったりするだけ。
 そんなシンプルな踊りだったから、小学校の運動会なんかで、どこでもやっていた。歌詞の中に「ラーンラ、ラーンラ、ランランラ、初めてキスをする〜」てのがあって、そこになると、やたら大声を上げて一緒に歌っている悪ガキがよくいたもんです。

 ところが、人数が多くなると、「輪」をきれいに保ったままでいるのがけっこう難しくてね。僕も、どこかの運動会で見た記憶があるんだけど、たいてい、途中で、輪が切れちゃったり、だんだん輪が崩れて四角に近くなっていったり。それに、中には、どうにもリズム感の悪い子がいて、いつまでたってもほかと同じ動きができなかったり。しかも、最後、だんだん速くなってくる。それでも「輪」を保ちながら踊れるかどうかがポイント。単純だけど、それなりに深みのあるフォークダンスなんですよ。

 坂本九のレコードは1966年に発売された。当時、九ちゃんは東芝EMIの所属だった。僕も東芝EMI専属だったから、やりやすかった。
 それどころか実は……すでに、東芝EMIで、インストルメンタル盤が、僕の編曲・指揮で出てたんです。まさに「学校ダンス」用レコードとして。演奏はエンジェル・ポップス・オーケストラ(臨時編成のスタジオ・バンド)。日本中で、このレコードがかかった。だから自慢じゃないけど、全国の学校に《ジェンカ》を流行させたのは、このレコードなんですよ。それだけに、「BJ」付録楽譜の、僕の第一弾として、翌年の67年に、この曲を取り上げたのも当然というわけです。

▲岩井編曲・指揮の学校ダンス用《ジェンカ》。このジャケットでは、「輪」ではなく、「ひたすら長い行列」になっている。踊っている人たちを見よ! まさに「老若男女」! あのころ、これを踊ったアナタ、「岩井編曲」だったなんて、知ってました?
▲坂本九の《レット・キス(ジェンカ)》。《皆んなでわらいましょ》がA面になっているヴァージョンもある。

■映画公開、即楽譜!

 ただ、「ポップス吹奏楽」といっても、のちのNSBのような本格的なアレンジというより、もう少しシンプルだった。

 というのは、やはり雑誌の付録として付ける以上、あらゆる世代が演奏できなきゃいけない。編成も凝ったものにはできないし、技術的にも、ある程度の平易さがなければならない。
 さらに「付録」ですから、長いアレンジはできない。長くするとパート譜が2頁にわたってしまう可能性がある。あくまでパート譜は1頁(ただし、後年、どうしても長いメドレーなどにならざるをえない時は、指揮者用のスコアのみで、パート譜は付けない、なんてこともありました)。

 あの雑誌のサイズでパート譜を1頁のスペースにおさめるとなると、まあ、せいぜい3分かそこらの曲しか入れられない。小節数にすると72小節くらいだってわけです。
 だから、どうしても、原曲を忠実に再現するというよりは、エッセンスを楽しめるようなアレンジにするしかない。アドリブっぽく曲が発展していくなんてのも、無理。これがけっこう大変でしたね。

 編成は、いわゆる標準編成。僕のポップス・アレンジは、のちに、トランペットやトロンボーンを4本にしたり、サクソフォーンを5本(アルト2、テナー2、バリトン1)にした、いわゆる「ビッグバンド編成」を基本にしたものが多くなるんだけど、このころは、まだ、そうはいかない。だからトランペット3、サクソフォーン4という、まあ、普通の中学校吹奏楽部あたりを想定した編成です。

 その後も、年に4〜5回の割合で、「BJ」付録楽譜を書きました。ほかの人がクラシック系を編曲し、僕はポップス系専門。

 「BJ」付録をさらに発展させて、「NSB」へ入れた曲もあります。
 たとえば、1972年10月号の《ゴッドファーザー 愛のテーマ》。
 この映画がアメリカで公開されたのが1972年3月。空前の大ヒットとなって、主題歌の《愛のテーマ》も大ヒット。日本公開は同年7月だけど、すでに主題歌は先に日本でも知られていた。もちろん、日本公開もたいへんな話題になった。それまでタブーだといわれていたマフィアの実態を描いたものでしたからね。

 そこで10月号(9月発売)に、早くも吹奏楽版を付録に付けたんです。
 この楽譜はずいぶん話題になって、あちこちで演奏された。マフィア映画の主題歌を、中学生や高校生が演奏するとはいかがなものか、みたいなことを言う先生もいたらしいけど、かえって、そのせいで、演奏した子たちは自分たちが大人になったような気がしたみたいだね。

 で、翌1973年9月発売の「NSB」第2集(といっても前回お話したように、実際には第2集じゃなくて、別アルバムの体裁だったんだけど)で、この曲を入れた。もちろん、「BJ」版をもとにしているとはいえ、もう少し大きなイメージのアレンジにしていますけどね。
 しかし、7月に日本公開された映画の主題歌を、9月発売の付録に編曲して付けるなんて、あまり時間がないなあ、と思われるかもしれませんね。

 とんでもない話でね、実際には、毎回、曲が決まって締め切りまで2週間とか10日なんてのがザラだったんですよ。だけど僕は、いままでに何度も話しているように、尋常ではない分量と時間制約の中で仕事をしてきているから、まあ、そんなもんだと思って平然とこなしていましたね。

 1969年11月号(10月発売)の《空軍大戦略マーチ》も早かったねえ。映画公開が日英同時で1969年9月。たいへんカッコいい音楽だったんで、さっそく10月発売に間に合わせて編曲した。最近、この曲がイギリスあたりのバンドが録音してリバイバル人気になってるそうだね。ところが、日本で容易に手に入る編曲譜がないので、よく、僕のところに聞いてくる人がいますよ。「昔、BJの付録であったそうですが、いまはどこから出てるんですか」なんて。よくわからないけど、いまは入手不可能なんじゃないかなあ。


■難しい最近のポップス

 これは、「BJ」の国塩さんのインタビューでも言ったことなんですが、いまのポップスは、吹奏楽にするのが難しいですね。というより、吹奏楽に向いていない曲ばかり。
 なぜかというと、メロディで聴かせるのではなく、派手なバック・リズムと、歌詞の面白さや凝り方が中心の曲がほとんどだから。だから、どうしてもラップみたいな曲がほとんどでしょう。そうなると、吹奏楽の「管楽器」で演奏しても、魅力が出ないんです。

 やはり吹奏楽ポップスは、まず「メロディ」がよくなくちゃダメ。その点、昔は、名旋律のポップスがいくらでもあった。だから、そのまま忠実に表現するだけでも十分面白いし、凝ったら凝ったで、それなりにまた、別の面白さが出せた。

 難しい時代になったと思いますけれど、でも、嘆いてばかりいても仕方ない。僕たちの仕事は、新しい開拓ももちろんだけど、昔のいいものを、次世代に伝えていくことも大切だと思う。「BJ」の付録楽譜や「NSB」が、少しでもそのために役立てれば、と思っています。

【つづく】


 
続きを読む>>>

【お知らせ】
第22回は5月15日(水)正午〜、掲載予定。
(毎月15日・30日=土日祝日の場合は、直前の平日=に掲載予定)
(BP編集部/富樫鉄火)

(C)岩井直溥・富樫鉄火/バンドパワー
※記事中の文章を、紹介引用の範囲を超えて、著作権者(岩井直溥・富樫鉄火)および出版権者(株式会社スペースコーポレーション/バンドパワー事業部)の許諾なく、紙誌・ネット上に再掲載することを固く禁止します。
※記事中の写真を、上記著作権者・出版権者の許諾なく、紙誌・ネット上に複写掲載することを固く禁止します。


その輝ける軌跡。巨匠、初の吹奏楽オリジナル作品集がついに登場!


『EVERGREEN 〜岩井直溥作品集〜』

岩井直溥&東京佼成ウインドオーケストラ

 日本音楽界の生き証人、岩井直溥の自作自演による吹奏楽オリジナル作品集。名アレンジャーとして名を馳せる氏の吹奏楽オリジナルといえば、70〜80年代にかけて綺羅星のごとく輝いたコンクール課題曲が有名だが、このアルバムではさらに自由曲として全国大会での演奏経験もあるオリジナル作品や、秘蔵の名曲も収録。岩井×TKWOのゴールデン・タッグによるこの記録は、日本吹奏楽にとって大いなる遺産となるであろう。

BPショップにて発売中 http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1548/

【収録曲】

編曲・作曲:岩井直溥(Naohiro Iwai) 【全曲】

1. シンコペーテッド・マーチ「明日に向かって」 【3:29】
   Syncopated March "Asuni-Mukatte"

2. ポップス・オーバーチュア「未来への展開」 【4:42】
   Pops Overture "Development toward the Future"

3. ポップス描写曲「メイン・ストリートで」 【5:01】 
   On Main Street

4. ポップス変奏曲「かぞえうた」 【5:09】 
   Pops Variation "Kazoeuta"

5. ポップ・コンサートマーチ「すてきな日々」 【4:24】 
   Pops March "Wonderful days"

6. Jump Up Kosei 21 【7:46】  

7. 詩曲「渚の詩」 【8:50】  

8. 響きかぎりなく 【7:02】 

9. あの水平線の彼方に 【11:38】

【ボーナストラック】

10.靴が鳴る/弘田龍太郎(arr.岩井直溥)

BPショップにて発売中 http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1548/

(2008.12.15)>>


■岩井直溥関連CD
■ニュー・サウンズ・スペシャル
■EVERGREEN〜岩井直溥作品集
■ベスト・ニュー・サウンズ・イン・ブラス100−ベスト吹奏楽II
jasrac番号吹奏楽マガジン バンドパワー