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吹奏楽ポップスの父 昭和大爆走!


第20回 NSBの定着まで

 1972年に出した「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」(NSB)の第1集。前回話したように、それなりの意義を感じ、意気込んで出したんだけど、これが全然売れなかった。
 で、発売元のCBS-SONY(現ソニー・ミュージック)にも迷惑かけることになっちゃった。
 でも、僕たち現場は、ある種の手応えを感じていた。いままで学校吹奏楽部には絶対にできなかったことを、何とか開拓したという自負もあった。前回説明したヤマハの石上さんも応援してくれていたしね。
 そこで、第2集をつくろうということになった。


■第2集からは東芝EMI

 ただ、もうCBS-SONYには迷惑をかけるわけにはいかない。そこで、今度は、僕が専属をつとめている東芝EMIで出すことになった。

 だから、正確に言うと、この第2集は、第1集の続編じゃないんですよ。アルバムタイトルも、第2集は「ヤング・ポップス・イン・ブラス!!」となっている。まさか、別のレコード会社から出たもののタイトルをそのまま使うわけにいかないんで、一見、似て非なるものにしたわけです。
ちなみに第3集のタイトルも「ヤング・ポップス・イン・ブラス!!/イエスタディ・ワンス・モア」。「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」というタイトルに戻って、以後、ずっとこれで通すようになるのは第4集からなんです。

 1973年に出した第2集(タイトルは別だけど)は、全12曲。そのうち、7曲を僕が編曲した。あとは、アーニー・パイル劇場で一緒だったトロンボーン奏者の河辺公一。ちょうどこの時、彼は、コンクール課題曲≪高度な技術への指標≫を書いていた(翌1974年の課題曲)。それと、第1集につづいて東海林修さん。あと、たかしまあきひこにもやってもらった。「8時だよ!全員集合」の音楽担当でおなじみの人です。

 全12曲中、3曲がビートルズの曲で、≪レット・イット・ビー≫≪ミッシェル≫≪エリナー・リグビー≫。ちょうどビートルズは1970年に解散したところで、そのこと自体がたいへんな話題になっていて、彼らの曲が、いわゆる「永遠の名曲」にどんどん変貌していく時期だったんだ。

 その後はずっと東芝EMIからの発売で、第3集が1974年、第4集が1975年。この第4集を出したあたりから、ずいぶん認知されるようになってきて、この年、特別に、第2集を「ニュー・サウンズ・イン・ブラス/レット・イット・ビー」と題して再発売した。翌1976年は1回だけ休んで、以後は、ほぼ年に1回出し続けて、2009年現在で、第37集に達しています。


■錚々たるアレンジャーたち

 前回話したように、演奏団体は、当初は、東京佼成ウインドオーケストラ(TKWO)のメンバーを中心にした臨時編成バンド。1976年の第4集からは、完全にTKWOの名前だけになっています。この年から、正式に指揮者として僕の名前もクレジットされるようになりました。

 その間、いろんなアレンジャーが参加してくれました。

 いま、宮崎アニメを中心に大作曲家として活躍してくれている久石譲さんの初参加は1979年の第7集。曲は、≪アルビノーニのアダージョ≫と、アース・ウインド&ファイアの≪宇宙のファンタジー≫です。当時、これらの楽譜を演奏した中高生は、まさか後年、久石氏が、これほどの人気作曲家になるとは予想もしなかっただろうねえ。彼が最初に本格的に注目を浴びるのは、1984年のアニメ映画『風の谷のナウシカ』ですから、まだしばらく先のことです。以後、久石氏は、毎年のように、NSBに参加してくれました。

 いまでもよく演奏されている、チャック・マンジョーネの≪フィール・ソー・グッド≫は1980年・第8集の収録曲で、これが彼の編曲です。

 ちなみに、この「久石譲」というペンネームが、彼が敬愛するクインシー・ジョーンズから来ていることは有名ですが、NSBでも、1982年・第10集で、「師匠」の名曲≪愛のコリーダ≫を編曲しています。

 人気作曲家の三枝成彰氏は、1982年・第10集で、≪エンドレス・ラヴ≫を編曲してくれています。ダイアナ・ロスとライオネル・リッチーのデュエット曲で、前年(1981年)の映画『エンドレス・ラヴ』の主題歌でした。三枝氏は、この2年後(1985年)に、コンクール課題曲≪Overture Five Rings≫を書きます。

 いま放映中のNHK大河ドラマ『天地人』のテーマ曲を書いている大島ミチルさん。彼女も、いまでは押しも押されもせぬ大作曲家ですが、彼女は、1996年・第24集の≪ニュー・シネマ・パラダイス≫メドレーを編曲しています。これも、いまでも演奏されているロング・ヒット・スコアですよね。

 そうそう、いまオリジナル曲で大人気の長生淳くんも参加してくれています。2000年・第28集の≪海の上のピアニスト≫がそうです。

 そのほか、浦田健次郎さん、森田一浩さん、小六禮次郎さん、小長谷宗一さん、藤田玄播さんなど、とても全部はあげられないけれど、錚々たる顔ぶれです。


■真島俊夫、登場!

 真島俊夫くんの初登場は、1982年・第10集の≪さらばジャマイカ≫。ジャマイカ民謡で、ハリー・ベラフォンテが歌ってヒットした曲です。

 そのころ僕は、神奈川大学のポップス・コンサートの指揮をよくやっていた。まだ小澤俊朗さんが来られる前のことだと思います。
 で、あるときのコンサートの打ち上げか何かの席に、OBということで、真島くんが来ていた。神大のOBで、いま、ヤマハのバンド・ディレクター・コースに通いながら、ジャズ・トロンボーンを吹きつつ、カネビン(兼田敏)に師事しているという。で、話をしているうちに、彼がアレンジにとても興味があると言い出した。どうも、中学か高校のころからすでにアレンジをやっていて、いわゆる「編曲小僧」だったらしいんだ。

 で、それをきっかけに、僕の仕事のアシスタント的なことをやってもらうようになって、NSBでデビューした。翌1983年の第11集でも、1曲だけ、≪真珠の首飾り≫をやってもらった。このあたりから、彼独自のアレンジ精神が次第に発揮されだしてきて、1985年には彼の≪波の見える風景≫がコンクール公募課題曲に採用される。そして翌1986年の第14集、≪オーメンズ・オブ・ラヴ≫で、いわゆるシンフォニック・ポップスともいうべき彼ならではのアレンジを完成させ、1987年・第15集の≪宝島≫で大爆発する。何しろ≪宝島≫は、楽譜が1ヶ月で売り切れたんだからね。どっちも、当時、フュージョンの最先端といわれていたTスクエアの曲で、どちらからといえば軽いタッチの原曲だったのが、壮大な響きに生まれ変わった。
 この2曲は、いまでも日本中で演奏されているロング・ヒット・スコアで、聞いたところによると、真島くんのオリジナル曲だと錯覚している若い人たちもいるらしいね。まあ、それほど独自のアレンジで成功したということでしょう。同時に、このNSB初登場の時期が、彼が本格的に吹奏楽の世界で名前が売れ出したころでもあったんです。


■「ネオンサインにならないように」

 僕自身は、もちろん第1集からずっとアレンジと指揮で参加しているけれど、自分ならではのスコアになったなあと満足できたのは、そうだねえ……1979年の第7集、≪A列車でいこう≫あたりからかな。昔ながらのビッグ・バンドのサウンドを、いかにして、現代の吹奏楽編成に移すか、さらにはそれを、中高生たちが無理なく演奏できて、それでいて、いかに大人のサウンドにするか。そういったことが、やっとこのあたりでわかってきて、自分なりに、確信をもって書けるようになった気がするね。

 なお、いまでもあちこちで演奏してもらっている≪アフリカン・シンフォニー≫は、けっこう初期の作品で、1977年の第5集ですでに登場しています。

 それと、いまに至る≪アメリカン・グラフィティ≫メドレー・シリーズを始めたのが1989年の第17集。そのときの曲目は≪悲しき片思い≫≪恋の片道切符≫≪オンリー・ユー≫≪ミスター・ベースマン≫≪ヴァケイション≫です。特に≪ヴァケイション≫は、僕とコンビを組んでいたミコ(弘田三枝子)が歌った曲なので、実に楽しんで編曲しました。

 初期はレコーディングも、なかなかたいへんだった。
 あくまで対象は若い人たち。しかもアマチュアでしょう。しかも学校の音楽室で練習するわけです。
 しかし、レコーディングで演奏するのはプロ中のプロたち。特にゲスト・ミュージシャンは、ジャズやポップスの世界の一流どころです。
 そうなると、レコーディングで、あまりに「上手」にやりすぎちゃうんだね。

 いまでも覚えているのは、1974年の第3集に入れた≪マイ・ウェイ≫。僕の編曲で、アルト・サクソフォーンのソロに、塚本紘一郎さんに入ってもらった。ところが彼、上手すぎるんだ(当たり前だけど)。で、こっちも「すいません、中高生向けなんで、ネオンサインになり過ぎないようにお願いします」なんて、半ば冗談を言いながら、「普通」に演奏してもらった。つまり、こういうポップス曲をプロが演奏すると、大人のムードになりすぎちゃうんだね。NSBは、あくまで若いアマチュア・バンドが対象だから、大人の一歩手前でとどめる必要がある。でも、ガキっぽい演奏をしては、NSBの意味がない。その加減具合を、スタッフや関係者が身につけるまで、ちょっと時間がかかりましたね。

 そうかと思えば、レコーディング・スタッフの中には、本格的なジャズやポップスを手がけたことのない人もけっこういて、あるときなど、スタッフの一人が「いま、トランペットの音が楽譜どおりでなく、ひっくり返ってました。もう1回、お願いします」なんて言ってる。あわてて僕が「いいんだよ、あれで。一種のアドリブなんだから。ポップスは完全に楽譜どおりでなくてもいいんだから」なんて説明したりした。いまとなっては笑い話ですがね。

▲全国のアマチュア・バンドを指揮しながら、クリニック行脚もつづけた

■全国をクリニック行脚
 すべてがそんな調子だったから、最初のころ、なかなかNSBが現場に受け入れられなかったのも無理なかった。

 そこで、ヤマハと組んで、全国をクリニック行脚してまわることになった。ポップス吹奏楽の面白さや演奏法を、NSBの楽譜を素材にして、宣伝もかねて指導に回ったんです。主に、僕と、ドラムスの猪俣猛さんとで回りました。そうねえ……1年に15〜16ヶ所は回ったんじゃなかったかな。3年ほどつづけましたよ。

 とにかく若い人たちは、ポップスの「譜読み」ができないんだ。明らかに、学校の音楽教育が邪魔している。たとえば4拍子の曲に全音符があったら、ただ単に4拍、音を延ばしているだけ。ポップスだったら、シンプルに延ばしたり、たっぷりヴィブラートをかけたり、あるいは、短めに吹いたり、長めに吹いたりと、いろんな奏法があるはずなんです。楽譜をいかに正確に再現するか、そればっかりなんだね。

 タンギングはすべて「Tu―、Tu―、Tu―」一辺倒。たまにクラシック的な奏法を身につけているバンドがあると、今度はすべて「Du―、Du―、Du―」。曲のムードやリズムに応じてタンギングの仕方を変えるなんてこと、どこもやっていない。

 ある中学で、指揮しているとき、前に座っているクラリネットの子に「いまのところ、合っていないよ」というと、突然、部屋を出て行く。で、しばらくするとチューナーを片手に戻ってきて「ピッタリ合っていますけど」と言う。
 僕が言ったのは、ピッチが合っているとか合っていないとか、そういう意味じゃないんだ。ポップスの場合は、かすかにずれた感じが必要なんだけど、そのずれ方がうまくいっていない、ということを言いたかったんだ。厳密にいえば、ピッチなんか、少しくらいずれていたほうが、味がある場合だってあるんです。
 あと、スウィングの弾む感じを、なかなか表現できないバンドが多かったのも特徴的だったね。

  とにかくイノさん(猪俣猛)と2人で、そんな指導をしながら、日本中を回りつづけた。その甲斐あってか、NSBも次第に受け入れられるようになり、いつしか、吹奏楽でポップスが演奏されても不自然とは思われなくなったし、学校の音楽室からポップスが聴こえてきても、怒る先生はいなくなった。

 最近のNSBは、ずいぶん高度な内容になって、ソロ・ミュージシャンなんか、ものすごいことをやっているね。それだけアマチュアの耳も腕も上がったということなんだろうけれど、初期のNSBは、実に素朴でした。

【つづく】


 

【お知らせ】
第20回は4月15日(水)正午〜、掲載予定。
(毎月15日・30日=土日祝日の場合は、直前の平日=に掲載予定)
(BP編集部/富樫鉄火)

(C)岩井直溥・富樫鉄火/バンドパワー
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その輝ける軌跡。巨匠、初の吹奏楽オリジナル作品集がついに登場!


『EVERGREEN 〜岩井直溥作品集〜』

岩井直溥&東京佼成ウインドオーケストラ

 日本音楽界の生き証人、岩井直溥の自作自演による吹奏楽オリジナル作品集。名アレンジャーとして名を馳せる氏の吹奏楽オリジナルといえば、70〜80年代にかけて綺羅星のごとく輝いたコンクール課題曲が有名だが、このアルバムではさらに自由曲として全国大会での演奏経験もあるオリジナル作品や、秘蔵の名曲も収録。岩井×TKWOのゴールデン・タッグによるこの記録は、日本吹奏楽にとって大いなる遺産となるであろう。

BPショップにて発売中 http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1548/

【収録曲】

編曲・作曲:岩井直溥(Naohiro Iwai) 【全曲】

1. シンコペーテッド・マーチ「明日に向かって」 【3:29】
   Syncopated March "Asuni-Mukatte"

2. ポップス・オーバーチュア「未来への展開」 【4:42】
   Pops Overture "Development toward the Future"

3. ポップス描写曲「メイン・ストリートで」 【5:01】 
   On Main Street

4. ポップス変奏曲「かぞえうた」 【5:09】 
   Pops Variation "Kazoeuta"

5. ポップ・コンサートマーチ「すてきな日々」 【4:24】 
   Pops March "Wonderful days"

6. Jump Up Kosei 21 【7:46】  

7. 詩曲「渚の詩」 【8:50】  

8. 響きかぎりなく 【7:02】 

9. あの水平線の彼方に 【11:38】

【ボーナストラック】

10.靴が鳴る/弘田龍太郎(arr.岩井直溥)

BPショップにて発売中 http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1548/

(2008.12.15)>>


■岩井直溥関連CD
■ニュー・サウンズ・スペシャル
■EVERGREEN〜岩井直溥作品集
■ベスト・ニュー・サウンズ・イン・ブラス100−ベスト吹奏楽II
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