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吹奏楽ポップスの父 昭和大爆走!


第18回「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」前夜

 渋谷ディレクターの提案で始まった、吹奏楽によるポップスLP。
 まず『ブラス・ロック』のほうは、文字通り、1960年代後半から70年代にかけて大流行していたブラス・ロックを吹奏楽のフル・バンドで演奏したもの。具体的には、シカゴやチェイスなどの音楽。これらは、従来のロックバンドに、ホーンセクション(トランペット、トロンボーン、サクソフォーンなど)を加えたもので、当時、大人気だった。

  このLPが、のちに「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」(NSB)を生むきっかけとなるわけで、ということは、NSBは、60〜70年代のブラス・ロックが原点だともいえるわけです。

 だ から、そのブラス・ロックについて簡単にお話しておきましょう。


■吹奏楽でブラス・ロックを

 始まりは、シカゴというグループでした。ここは、最初はトランペット、トロンボーン、サクソフォーンの3ホーン。≪長い夜≫≪イントロダクション≫、どれもカッコよかった。単に派手なだけじゃなくて、当時の世相や政治風刺をうまく盛り込んだ歌詞も話題だった。

 これに続いたのがチェイス。元ウディ・ハーマン楽団にいたビル・チェイスってトランペッターが結成したんだけど、そのハイトーンの迫力たるや、驚き以外の何者でもなかったね。なにしろ彼らは、トランペット4本なんだ。トロンボーンやサクソフォーンはなし。ラッパ4本がビュービュー吹いて、それにエレキギター、エレキベース、ドラムス、そしてヴォーカルだからね。

 デビュー曲の≪黒い炎≫なんか、大ヒットした。なんともカッコいい曲だよね。

 あと、≪オープン・アップ・ワイド≫というインストの曲。冒頭、ラッパのすごいハイトーンのファンファーレ風のフレーズがあって、遠くで聴こえていたのが次第に近づいてきて、やがて目の前で演奏が始まるような録音演出。これもすごかった。

 ところが、このチェイスは、ビル・チェイスを含むメンバーの大半が乗った飛行機が1974年に墜落事故を起こして、文字通り「消滅」しちゃうんだ。

 そして、ブラッド・スウェット&ティアーズ(BS&T)。キーボード奏者のアル・クーパーが結成した。ここもホーンを何本も入れて、ちょっとしたビッグ・バンド的なサウンドを出すロック・グループだった。のちにブレッカー・ブラザーズで、名曲≪サム・スカンク・ファンク≫を生むランディ・ブレッカー(Trp)も、ここにいたんですよ。いちばんのヒット曲は≪スピニング・ホィール≫かな。彼らは、ほとんどがメンバー・チェンジしちゃったけれど、いまでも活躍しているグループです。

 こういったブラス・ロックの名曲を、吹奏楽フル・バンドで収録した。もちろん、エレキベースやギター、ドラムスも入れて。

 ただ、最初は「吹奏楽」という意識はあまりなかったんだよね。このLPの解説は秋山紀夫さんが書いていて、企画協力者の一人でもあったんだけど、彼は「ビッグ・ブラス」という名称を使っている。つまり、ビッグ・バンドのもっと大きい編成とでもいったイメージ。当時のブラス・ロックのイメージをさらに強調するには、ビッグ・バンドより大きい吹奏楽のほうがピッタリだったんだ。

 いま、デビッド・マシューズが率いるマンハッタン・ジャズ・オーケストラってのがあるでしょう。通常のビッグ・バンドにホルンやテューバを加えて吹奏楽的な響きを出すジャズ・バンド。あのイメージに近いかもしれないね。

 だから、このLPでは、バンドは航空自衛隊航空音楽隊(現「航空自衛隊航空中央音楽隊」)。いまでもそうですが、航空は、この種のポップス・テイストのある曲をやると、とてもうまいんですよ。当時すでに、府中の米軍第5空軍バンドや、厚木の米軍バンドと共演していて、ポップス感覚を身につけていたんですね。一方、シンフォニック系といえば、やはり陸上自衛隊中央音楽隊ですかね。

 これに、市原宏祐(T.Sax)、羽鳥幸次・村田文治(Trp)、新井英治(Trb)、直居隆雄(EG)、寺川正興(EB)、石川晶・須永ひろし(Dr)といった、当時のジャズ・ポップス界のトップ・ソロ奏者を加えた。編曲は全部僕で、指揮は、なんと齋藤高順と進藤潤。斎藤さんは当時の音楽隊長。≪ブルー・インパルス≫の作曲者としても有名だよね。


■最初の11曲

 ここに収録された、記念すべき11曲の曲目は、

【A面】

1) イントロダクション(シカゴ)
2) 黒い炎(チェイス)
3) 黒いジャガーのテーマ(アイザック・ヘイズ/映画音楽)
4) スーパーフライ(カーティス・メイフィールド/映画音楽)
5) スピニング・ホイール(BS&T)

【B面】

1) オープン・アップ・ワイド(チェイス)
2) クエスチョン67〜68(シカゴ)
3) ランカスター・ゲイト(リチャード・エヴァンス)
4) アンド・ホェン・アイ・ダイ(BS&T)
5) ハイ・ディ・ホー(BS&T)
6) アクエリアス(マクダーモット/ミュージカル≪ヘア)より)

 (いうまでもありませんが、昔のLPってのは、A面・B面の裏表あったんです)

 昔のNSBをご存知の方だったら気がつくと思うけど、この中のいくつかは、のちにNSBの曲になっているのもあるし、僕の音楽出版社であるイワイ・ミュージックから吹奏楽版スコアが発売されているものもある。まあ、僕のポップス吹奏楽の「原典」ともいうべき仕事です。

 先述の秋山さんがライナーノーツでとてもいいことを書いてくれています。一部を紹介しましょう。

 「アメリカでは管楽器の奏者は必ずクラシックもジャズも演奏できるように教育されており、特に最近のアメリカの音楽大学に学ぶ若い学生たちにその傾向はいっそう強い。そのため音楽大学にジャズの講座をもうけるのはもう常識となっている。
  私自身もイーストマン音楽学校の学生たちが、ある晩、24名編成の強烈なロックバンドを演奏するのを聴いた(その中のトランペット奏者の一人は女子学生だったが、まったく男子に劣らずがんばっていた)。が、その翌日、その連中がオーケストラに入ってモーツァルトのシンフォニーを演奏していた。それはまったく自然で何の違和感もなく行われている。
こうした活動は、当然ジャズの奏者の中に優秀なクラシックのバック・グラウンド、つまり正統的な音楽教育を受けた若者を送り込むこととなり、その結果生まれたのが、ブラス・ロック・グループである。BS&Tやシカゴやチェイスは、そうした特色のあるグループで、そのメンバーのほとんどは、イーストマン、ジュリアード、デュポールといったアメリカの一流の音楽学校の出身者である」
 
  このアルバムが出たのが、1970年か71年ころだったと思います。NSBのスタートはまだで、1972年です。

  この1970年代初頭の吹奏楽界がどうだったかというと、コンクール課題曲を見ると、雰囲気がわかるでしょう。

1969年 中学の部 ≪ふるさとの情景≫(川崎優)
      他部門 ≪南極点への序曲≫(岩河三郎)
1970年 中学の部 ≪サムソン≫序曲(ヘンデル)
      他部門 ≪音楽祭のプレリュード≫(リード)
1971年 中学の部 行進曲≪輝く銀嶺≫(齋藤高順)
      他部門 行進曲≪太陽の下に≫(奥村一)

 このように、課題曲は、中学生向きとそれ以外の2曲のみ。内容も、いわゆるシンフォニック系かマーチでした。いかにも「吹奏楽は、まじめな曲を演奏しろ」「特に中学生はあまり派手な曲はやるな」といったムードが漂っているでしょう。

  この翌年1972年に、僕が、中学生向きの課題曲、シンコペーテッド・マーチ≪明日に向かって≫を書いて、これが、少しポップスの香りがする曲だった。課題曲にポップス・テイストが加わるのは、これ以降の話です。

  つまり、1970年代初頭は、まだまだ、吹奏楽でポップスを演奏するなんてことは、ほとんど行われていなかったんです。よく聞くでしょう、当時、音楽室でビートルズなどのポップスを演奏すると、先生に怒られた、なんて話を。

  それだけに、1970〜71年に、吹奏楽でブラス・ロックのアルバムを出すなんてことは、ある意味、画期的なことでした。

▲記念すべき、日本初の「吹奏楽ポップス」LP
(右)ブラスバンド・プレイズ・ブラス・ロック
(左)ダイナミック・マーチ・イン・バート・バカラック

■中高生にポップスを

 この『ブラス・ロック』のほかに、同じメンバーで、バート・バカラックのアルバムも作りました。『ダイナミック・マーチ・イン・バート・バカラック』です。

 バート・バカラック(1928〜)とは、アメリカを代表する、ポップスの作編曲家、音楽プロデューサー。映画『明日に向かって撃て!』(1969)の主題歌≪雨にぬれても≫でアカデミー主題歌賞をとっている。希代のメロディ・メーカーです。

 そういう2枚の「吹奏楽ポップス」アルバムをつくったわけですが、前にいったように、このころはまだ、「吹奏楽」というよりは、「大編成ビッグバンド」という意識だった。

 ビッグバンドの基本編成が「4・4・5」(Sax・Trp・Trb)であることは、前にお話しましたよね。吹奏楽の場合、ここにほかの管楽器が加わるわけですが、これが「加える」という先入観でアレンジしちゃ、だめだんです。「「中に織り込む」感覚で入れないと。でないと、吹奏楽編成でやる意味がないんです。

 その点、僕は、アーニー・パイルで、弦楽器を加えたビッグバンドをやっていたし、東芝に来てからは、ありとあらゆる編成のアレンジを経験していたから、自然とその感覚が身についていたんだと思います。

 でもやはり、「吹奏楽でポップス(ブラス・ロック)」なんて、当時はありえないことだったから、どちらかというと「大編成ビッグバンド」という意識だったわけですね。

 ところが、これが、意外とうまくいったんですよ。

 当時、吹奏楽編成で、こんな曲をやるなんてこと自体、新鮮だったし。それに、選曲をブラス・ロック曲、さらに、メロディ中心のバート・バカラックにしたことが効を奏した。はっきりいって、原曲よりスゴイんだ。原曲をレコードで聴いたとき「カッコいいなあ……でも、ここんとこ、もっと派手に演奏したら、さらにいいのになあ……」と、誰もが感じていたことが、すべて、表現されていたんだね。航空自衛隊のメンバーたちも、もうノリノリで演奏してましたよ。

 もちろん、初めての経験だし、いままでにも述べているように、1枚のアルバムをつくるのに余裕なんてない、とにかく企画が出てから録音まで1週間なんてザラだった時代だから、いま聴くと、かなり荒っぽい部分もあります。でも、音楽の面白さというのは、必ずしも正確で丁寧に演奏・録音されたものがすべてじゃないんだな。

 たとえば、いま『ブラス・ロック』の≪黒い炎≫なんて聴くと、かなり荒っぽいですよ。トランペットの細かいフレーズも揃っていないし、ホルンのグリッサンドも、上がりきっていないところもある。でも、それでもやはり、このノリと迫力は、もう二度と生み出せない。「いままでの吹奏楽でできなかったことをやってみよう」という、実験精神と意気込みが、すべてに勝っている。

 で、僕たちは考えた。

 「いま、全国の中学高校には、吹奏楽部がどんどんできている。でも、みんな、マーチやシンフォニックばかりじゃ、クラブ活動も面白くないんじゃないか。この『ブラス・ロック』や『バカラック』みたいなアルバムを、中高生向きにして、同時に楽譜も出したらどうだろう」と。

【つづく】


 
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【お知らせ】
第19回は3月30日(月)正午〜、掲載予定。
(毎月15日・30日=土日祝日の場合は、直前の平日=に掲載予定)
(BP編集部/富樫鉄火)

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その輝ける軌跡。巨匠、初の吹奏楽オリジナル作品集がついに登場!


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【収録曲】

編曲・作曲:岩井直溥(Naohiro Iwai) 【全曲】

1. シンコペーテッド・マーチ「明日に向かって」 【3:29】
   Syncopated March "Asuni-Mukatte"

2. ポップス・オーバーチュア「未来への展開」 【4:42】
   Pops Overture "Development toward the Future"

3. ポップス描写曲「メイン・ストリートで」 【5:01】 
   On Main Street

4. ポップス変奏曲「かぞえうた」 【5:09】 
   Pops Variation "Kazoeuta"

5. ポップ・コンサートマーチ「すてきな日々」 【4:24】 
   Pops March "Wonderful days"

6. Jump Up Kosei 21 【7:46】  

7. 詩曲「渚の詩」 【8:50】  

8. 響きかぎりなく 【7:02】 

9. あの水平線の彼方に 【11:38】

【ボーナストラック】

10.靴が鳴る/弘田龍太郎(arr.岩井直溥)

BPショップにて発売中 http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1548/

(2008.12.15)>>


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■ニュー・サウンズ・スペシャル
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■ベスト・ニュー・サウンズ・イン・ブラス100−ベスト吹奏楽II
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