吹奏楽マガジン バンドパワー 吹奏楽マガジン バンドパワー
吹奏楽ポップスの父 昭和大爆走!


第14回 フランキー堺という男


■エリート出身

 その前に、まず「フランキー堺」とは何者なのか、説明しておく必要があるね。おそらくいまの若いひとたちは、もう、あまり知らないんじゃないかな。
 彼は、本名は堺正俊(1929〜96)。れっきとした日本人ですよ。「フランキー」というのは、ドラマーとしてGHQのキャンプをまわっていた際、アメリカ人に覚えてもらいやすいように付けた芸名です。
 彼はたいへんなエリートでしてね。鹿児島の旧士族の名家の生まれ。麻布中学を卒業後、慶應大学の法学部に通った。だけど、当時の音楽好きの例にもれず、在学中からジャズ・ドラムスを叩いていて、卒業後、そのままプロのドラマーになってしまった。
 そして、活動の場が、ぼくと同じ、GHQのキャンプやクラブだったんです。
 当時、彼がもっとも演奏していた場所は、キャンプ・ドレイクでした。いまの陸上自衛隊朝霞駐屯地です。ちなみにここは、返還後、東京オリンピック(1964年)の選手村に使用される予定だったところです。ところが、交渉が難航し、しかも都心から離れているせいもあって、代々木のGHQ官舎「ワシントン・ハイツ」が選手村になってしまった(いまの代々木公園ですね。
 で、そのフランキーは、確かにドラマーでしたが、その枠だけではおさまりきれない才能のある男でした。昭和30年ころから映画にコメディアンとして出演し始めて、喜劇役者として成功しました。
 代表作は、東宝の「喜劇駅前シリーズ」や「社長シリーズ」。
 そして昭和32年、川島雄三監督の大傑作『幕末太陽傳』に出演して、役者としての評価を確立した。
 みなさんは、いま、『私は貝になりたい』という映画が公開されているのをご存知でしょう。あの物語は、昭和33年にTBSで放映された単発ドラマが原作です。翌年、東宝で映画にもなりました。これらで主役を演じたのがフランキー堺です。いまの映画では、中居正広が演じている役ですが、ぼくなんかは、『私は貝になりたい』といえば、フランキーの印象があまりに強烈で、ほかの役者は、とても考えられない。
 あとは、やはり昭和36年の東宝映画『モスラ』における、新聞記者「スッポンの善ちゃん」でしょうか。怪獣モスラの謎とギャングたちの陰謀を追いかける新聞記者役を、実に明るく演じていましたね。
 それともうひとつ、これはずっとあとのことになりますが、彼は浮世絵に興味をもつようになり、特に、謎の絵師と呼ばれた東洲斎写楽についてはプロなみの研究をしていました。後年、収入の多くは、写楽の蒐集に費やしていたはずですよ。
 亡くなる前年の1995年に、篠田正浩監督の『写楽』という映画が公開されましたが、これは彼の念願の企画で、自ら企画総指揮として参加したほか、写楽の版元である蔦屋重三郎役で、準主役として出演しています。
 彼は、この翌年に肝不全で、67歳で亡くなるんですが、もう、この映画のころはかなり悪くなってたんじゃないかなあ。顔色もよくなかったし、せりふまわしも、ちょっとうまくまわっていない感じがあった。しかし、後半生をかけて研究してきたテーマを、自ら映画にしたわけですから、なかなか鬼気迫る演技でした。

▲出会ったころの岩井氏とフランキー堺(右)

■フランキーの仲間たち

■「冗談音楽のアレンジを」

 当時、フランキーの家は、大森にありました。そこへ呼ばれましてね。何かと思ったら、要するに、ぼくを招きたいというんだけど、それが、「スパイク・ジョーンズをやりたい。ついては、アレンジを担当してほしい」というものでした。
 スパイク・ジョーンズ(1911〜65)とは、アメリカのジャズ・ドラマーで「冗談音楽の帝王」と呼ばれていた。
 彼が結成した「スパイク・ジョーンズとシティ・スリッカーズ」は、日本にもレコードが入ってきていて、ぼくも聴いていた。大好きだった。
 とにかくバカバカしい音楽でね。鍋や釜を叩いて≪ウィリアム・テル≫序曲を演奏し、途中、きれいなメロディの部分は、うがいをしながら歌う。そんな冗談音楽ばかりやっていた。ところが、単なるオフザケとはいい難くてね。聴き流していると、その場でやっつけアドリブでやっているように思えるんだけど、そうじゃないんだ。それなりの一流ジャズ・ミュージシャンが、ちゃんとしたアレンジ譜をもとに、計算の上、徹底的なリハを重ねた上でやっていることがわかるんだ。
 で、フランキーは、そういう音楽をやりたいという。確かに当時、正統派のジャズをやる連中はかなりいたけど、スパイク・ジョーンズみたいな冗談音楽をやっている者は、いなかったからねえ。
 実は当時、ぼくは生来の喘息が少々悪くなっていたせいもあって、ラッパを吹くのがきつくなっていた。アレンジ中心の生活に入れるのなら、そっちのほうがいいような気もした。
 そこで、彼の誘いに乗ることにしました。
 「フランキー堺とシティ・スリッカーズ」の誕生です。

【つづく】

 

※第15回は1月15日(木)正午〜、掲載予定。
(毎月15日・30日=土日祝日の場合は、直前の平日=に掲載予定)

(C)岩井直溥・富樫鉄火/バンドパワー
※記事中の文章を、紹介引用の範囲を超えて、著作権者(岩井直溥・富樫鉄火)および出版権者(株式会社スペースコーポレーション/バンドパワー事業部)の許諾なく、紙誌・ネット上に再掲載することを固く禁止します。
※記事中の写真を、上記著作権者・出版権者の許諾なく、紙誌・ネット上に複写掲載することを固く禁止します。


その輝ける軌跡。巨匠、初の吹奏楽オリジナル作品集がついに登場!


『EVERGREEN 〜岩井直溥作品集〜』

岩井直溥&東京佼成ウインドオーケストラ

 日本音楽界の生き証人、岩井直溥の自作自演による吹奏楽オリジナル作品集。名アレンジャーとして名を馳せる氏の吹奏楽オリジナルといえば、70〜80年代にかけて綺羅星のごとく輝いたコンクール課題曲が有名だが、このアルバムではさらに自由曲として全国大会での演奏経験もあるオリジナル作品や、秘蔵の名曲も収録。岩井×TKWOのゴールデン・タッグによるこの記録は、日本吹奏楽にとって大いなる遺産となるであろう。

BPショップにて発売中 http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1548/

【収録曲】

編曲・作曲:岩井直溥(Naohiro Iwai) 【全曲】

1. シンコペーテッド・マーチ「明日に向かって」 【3:29】
   Syncopated March "Asuni-Mukatte"

2. ポップス・オーバーチュア「未来への展開」 【4:42】
   Pops Overture "Development toward the Future"

3. ポップス描写曲「メイン・ストリートで」 【5:01】 
   On Main Street

4. ポップス変奏曲「かぞえうた」 【5:09】 
   Pops Variation "Kazoeuta"

5. ポップ・コンサートマーチ「すてきな日々」 【4:24】 
   Pops March "Wonderful days"

6. Jump Up Kosei 21 【7:46】  

7. 詩曲「渚の詩」 【8:50】  

8. 響きかぎりなく 【7:02】 

9. あの水平線の彼方に 【11:38】

【ボーナストラック】

10.靴が鳴る/弘田龍太郎(arr.岩井直溥)

BPショップにて発売中 http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1548/

(2008.12.15)>>


■岩井直溥関連CD
■ニュー・サウンズ・スペシャル
■EVERGREEN〜岩井直溥作品集
■ベスト・ニュー・サウンズ・イン・ブラス100−ベスト吹奏楽II
jasrac番号吹奏楽マガジン バンドパワー