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バンド維新
ウィンド・アンサンブルの現在(いま)


作曲家によるレクチャー・公開練習:2月16日(土)
初演コンサート:2月17日(日)
会場:静岡県浜松市・アクトシティ浜松(中ホール)
レポート:富樫鉄火(音楽ライター)


 吹奏楽の新しい世界を開拓した『バンド維新』

▲実演解説を行う西村朗氏(左から2人目)と浜松海の星高等学校のメンバーたち

 吹奏楽の新曲がまとめて発表される機会というと『21世紀の吹奏楽“響宴”』が有名である。昨年第10回を迎え、今年も3月9日(日)に、東京芸術劇場での開催が予定されている。

 これに対し、同じく新曲がまとめて発表される『バンド維新』なる企画がスタートし、先日、静岡県浜松市で開催された。だが、その様相は『響宴』とは、かなり違う。

■すべての“仕込み”が事前に終了
 
『バンド維新』の特徴は、以下のような点にある。

※日本作曲家協議会と、浜松市文化振興財団による主催。
※ふだん吹奏楽曲をあまり書いていない作曲家による、すべて委嘱新作。
※曲は、小編成中心<詳細、後述>。
※楽譜も同時出版(東京ハッスルコピーより)、当日会場でも販売(8曲を1冊にしたフルスコア集も販売)。
※プロのスタジオ録音によるCDが(ほぼ)同時発売(航空自衛隊航空中央音楽隊の演奏で12月に収録済み。キングレコードより2月27日に発売)。
※コンサートは、浜松市内の中学・高校吹奏楽部による初演(ほぼ3ヶ月前に楽譜が渡され、練習してきたという)。
※作曲家自身を招いてのレクチャー・公開練習も前日に開催。

 ただでさえ委嘱新作は、完成が初演ぎりぎりになったり(場合によっては間に合わなかったり)、あるいは初演されたはいいけれど楽譜が出版されなかったり、音源が制作されなかったりということが多い中、これだけのステップがすべて事前に仕込まれ、同時にきちんと進行するとは、まったく驚きである。

 実際の企画は、日本作曲家協議会理事である北爪道夫が中心になったようだが、企画段階から主催者・演奏者(録音=プロ、ステージ初演=中学高校)・作曲家・楽譜出版社・レコード会社が一体となって進行した、きわめてまれなケースではないだろうか。北爪道夫を始めとする関係者の努力と実行力には、頭が下がるばかりである。

 曲と演奏者は、以下のとおり(演奏順)。

【1】木下牧子≪サイバートリップ≫(静岡県立浜松江之島高等学校)

【2】一柳 慧≪Poem Rhythmic≫(浜松市立高等学校)

【3】小六禮次郎≪アンゼラスの鐘≫(浜松市立高台中学校)

【4】三枝成彰 序曲≪機動戦士ガンダム・逆襲のシャア≫(静岡県立二俣高等学校)

【5】丸山和範≪Cubic Dance≫(浜松市立南部中学校)

【6】服部克久≪星への誘い Invitation to the stars≫(浜松市立与進中学校)

【7】西村 朗≪秘儀 I 〜管楽合奏のための≫(浜松海の星高等学校)

【8】北爪道夫≪並びゆく友≫(浜松市立江南中学校)

 委嘱にあたって、主催者からは「小編成で演奏できる曲。特にダブルリード(オーボエ、バスーン)は使用しない」との条件のみを提示したという(実は、【4】だけが、この条件が守られなかった。北爪は「一部(条件を)裏切った方もいますが」と苦笑していた)。

 その結果、ほとんどの曲は、以下のような編成となった。

フルート1・2(一部、ピッコロがオプション)
B♭クラリネット1・2(E♭、アルト、バスなし)
アルト・サクソフォーン(2なし)
テナー・サクソフォーン(バリトンなし)
ホルン1・2
トランペット1・2
トロンボーン1・2
ユーフォニアム
テューバ
ティンパニ+打楽器2〜3

 どれも最低17〜18人程度から、Bbクラリネット1・2やテューバを各2人で担当すれば、20人強から演奏できる曲ばかりである(前述のように【4】のみ、ほぼ標準編成)。

 演奏時間は、【7】が約8分なのを除けば、すべて7分以下なので、コンクールA組はもちろん、B組でもそのまま演奏できそうだ。

 どれも小編成で短い曲にしては音楽的スケールが大きく、かつ、従来の吹奏楽曲のイメージからはみ出した曲もあって、たいへん面白い企画であった。8曲中、【3】【4】【6】は、アニメ音楽をもとに再構成されたものである。

 それぞれがどんな曲なのかは、2月末に発売されるCD(航空自衛隊航空中央音楽隊の演奏)で確認していただきたいが、とにかく驚かされたのは、【7】西村朗≪秘儀T≫であった。

■衝撃の西村作品
  現在、中学高校で吹奏楽に携わっている若い方々には、あまり馴染みのない作曲家かもしれないが、西村朗は、1977年にエリザベート国際音楽コンクール作曲部門で大賞を受賞、そのほかあらゆる音楽賞を受賞している国際的な現代音楽作曲家である。

(ちなみに、エリザベートで西村と同時に作曲部門大賞を受賞したのが藤掛廣幸。76年≪吹奏楽のための協奏的序曲≫、83年≪白鴎狂詩曲≫と、2回コンクール課題曲を書いている人である)

 作風には「アジア」を意識したものが多い。合唱曲も多いので、コーラスをやっている方には、よく知られた名前かもしれない。筆者は特に西村作品に通暁しているわけではないのだが、それでもいくつか聴いた経験からいえば「脳みその奥をぶっ叩かれたような」強烈な印象の曲ばかりである。

 西村の吹奏楽作品は、いままで1曲しかない。1990年に発表された≪巫楽(ふがく) 〜管楽と打楽器のためのヘテロフォニー≫である(CD『フェスタ』佼成出版社に収録)。ところが、初版の編成がEbクラリネット4本とかソプラノ・サクソフォーン5本とか、通常の吹奏楽編成とはあまりに違っており、そうそう頻繁に演奏される曲とはいえなかった。

 それが今回は、一般的な小編成向けである。いったいどんな曲なのか、期待して聴いたのだが、やはり「脳みその奥をぶっ叩かれた」。度肝を抜かれた。これはたいへんな難曲である。だが、それだけ衝撃度も高い。架空の宗教儀式をモチーフにしたそうで、シャーマン(巫女)が秘儀を司り、踊りながら次第に盛り上がってトランス状態に陥り、最終的に興奮の頂点に達し「失神」する(まるで麻薬に脳内を侵されたようだ。未成年がこんな曲、演奏していいのか? …冗談だが)。まさに、小編成とは思えない、深い宇宙を感じさせる名曲である。聴いているほうが失神しそうになった。

 打楽器には、ユニークな奏法が求められる。ティンパニの上に鈴(りん…仏壇でチーンと鳴らすやつ)を並べ、それらを瞬時に叩き、ペダルを上下させ、「ヒュウウゥゥ〜ン…」という不思議な響きを発生させる。あるいは、ドラをスーパーボールでこする。アンティークシンバルを弓でこする。カリブのトリニダード・トバゴ共和国で生まれた打楽器「スティール・ドラム」も使用される(演奏前に、それらの実演解説があり、たいへん分かりやすかった。【8】でも)。

 管楽器はホケトゥス(複数の楽器が違ったリズムで音を点描し、重なるとひとつのフレーズに聴こえる)などもバシバシ登場する。よくぞまあ、このような曲を浜松海の星高等学校は演奏し通したものだと思う。喝采を送りたい。

■木下牧子、完全復帰
  【1】の木下牧子は、2006年のコンクール課題曲≪パルセイション≫が多くの方の記憶に新しいところだろう。古い話になるが、木下は、すでに1982年に課題曲≪序奏とアレグロ≫を書いている。だがそれ以来、吹奏楽曲はまったく書かず、合唱曲の世界で巨匠となっていた。

 それが、ひさびさに上述06年の課題曲と、同時期に書いた≪ゴシック≫(秋田・大曲吹奏楽団の委嘱で、課題曲と一緒に演奏して金賞を獲得し話題となった。ブレーンのCD『ニュー・オリジナル・コレクションVol.3/吹奏楽のためのゴシック』に収録)で、吹奏楽界に帰ってきた。つまり今回が“復帰”第3作目というわけである。ご本人も述べているが、最近作に比べ、たいへん明るい、小編成なのに大きな響きのするシンフォニック曲である。

 木下が長いこと吹奏楽曲を書かなかった理由は、プログラム解説によれば「学生時代から吹奏楽に興味を持ったのですが、当時の吹奏楽界は完全な男の世界で20代半ばだった私には居場所がなく(略)、吹奏楽を書かなくなってしまいました」とのことである。確かにあの頃、吹奏楽は「男の世界」だった。現に、私の大学時代などは、女子をパレードやマーチングに出演させないバンドが大半だった。新入部員の勧誘で女子を獲得してくると、上級生から苦虫を噛み潰したような顔をされたものだ。それがいまでは、学校吹奏楽部は、ほとんど女子で占められている。隔世の感がある。木下牧子には、ぜひとも、これから吹奏楽曲をどんどん書いていただきたいものだ。

(余談だが、谷川俊太郎・作詞、木下牧子・作曲による1989年発表の大人気合唱曲≪春に≫が、木下自身の手で吹奏楽伴奏版がつくられ、雑誌「バンドジャーナル」2008年1月号の付録についた。合唱+吹奏楽の、新しい木下ワールドである。合唱部と吹奏楽部が両方ある学校には、ぜひ文化祭などで“共演”していただきたい)

■「青春」「友情」を思い出させた北爪作品
  また、事実上の主催者である【8】の北爪道夫も、2004年課題曲≪祈りの旅≫が記憶に新しいところだ。1985年、ヤマハ吹奏楽団の委嘱による≪風の国≫(CD『火の伝説』佼成出版社、CD『吹奏楽名曲選/祝典音楽』コロムビアに収録)を皮切りに、決して多い数ではないが吹奏楽曲も発表している(上記、西村≪巫楽≫が収録されたCD『フェスタ』には≪フェスタ≫改訂版が収録されている)。

 今回の≪並びゆく友≫は、木金打の3セクションが、別々のことを語りながら、それでいて同じ流れに乗って進んでいくという、たいへんきれいな曲だった。ご本人も解説で語っていたように、譜面ヅラはシンプルだが、きれいに合わせるのはたいへん難しい、ハイレベルな音楽である。聴いていて、不思議なことに私は、自分の中学高校時代を思い出した。放課後の校庭とか、朝晩の通学路とか、夕日が差した音楽室とか……そして、年甲斐もなく「青春」とか「友情」なんて言葉が浮かんできてジーンとなった。この感覚を言葉で説明するのは難しい。ぜひ、CDで聴いていただきたい。きっと実際に演奏できたら、多大な感動に襲われるのではないだろうか。

 そのほか、小編成ながら知的な音楽性を聴かせてくれた【2】【5】、上質なロマンを奏でた【3】【6】、司会進行役・国塩哲紀(東京オペラシティ文化財団)のガンダム・ヲタクぶりを露呈させた【4】など、どれも個性豊かで、ひとつとして「似たような雰囲気の曲」はなかった。

■吹奏楽の新しい面白さ
  ……とまあ、できればすべての曲についてもっと語りたいのだが、きりがないので、あとは実際にCDを聴いたり、スコアを見たりして、ご自身の目と耳で確認していただきたい。

 この『バンド維新』、少なくとも今年一回限りのものではないそうだ。来年以降、どのような顔ぶれで、どんな曲が登場するのか興味津々だが、今回同様の仕組みを毎年確保すること自体、容易ではないはずだ。これだけの曲を初演演奏できる中学高校吹奏楽部が浜松市内に揃っていることも驚きだが、それでも、コンクールやアンコンが一段落している時期とはいえ、まったくの新作に(コンクールでもないのに)取り組む苦労はいかばかりか。特に≪秘儀T≫レベルの曲を割りあてられた日には、まさにコンクールと同等の練習が必要なのではなかろうか。しかし、前日のレクチャーのように、作曲者自身からアドバイスをもらえる機会もそうはないだろう(それが一般公開されたことも、たいへん意義あることだ)。

 きっと、作曲家たちも、ほとんど手弁当での参加ではないかと察する。しかし、せっかくの新しい試みだし、レクチャー、CD、楽譜、コンサートがちゃんと同時に進行するのだから、実用性も十分である。明らかに、関係者の自己満足や実験精神発露で終わった企画ではない。

 ぜひ多くの方々に、CDを聴いて、楽譜を見ていただきたい。従来の吹奏楽とはちょっと違った、小編成ならではの新しい面白さを発見できるだろう。
<敬称略>

バンド維新2008〜吹奏楽の今
航空自衛隊航空中央音楽隊


【指揮】佐藤義政、中村芳文
【発売元】キングレコード
KICC-682

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■バンド維新
http://www.hustlecopy.co.jp/bandishin/

■(財)浜松市文化振興財団
http://www.hcf.or.jp/bunka/band_restoration/index.html

(2008.02.18)



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