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ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団CD
 
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パリ・ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団
ジャパン・ツアー2007

姫路公演

日時:11月2日 (金)
会場:姫路市文化センター
レポート:田中久美子(作曲家)

◎フランス音楽をギャルドによる演奏で聴ける幸せ!

 パリ・ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団(以下、ギャルド)の6年ぶりの日本ツアーと聞いて、胸を躍らせた吹奏楽ファンは多いと思います。私も、その一人です。ギャルドは、世界最高峰の吹奏楽団のひとつとして、個人の卓越した技術と、吹奏楽の常識を遥かに超える豊かな表現力で知られています。「管楽器の国」と言われるフランスで、トップクラスの奏者たちを集めているのですから、当たり前と言えばそうなのですが、その魅力は、簡単には言い表せません。

 フランスは、個人主義の国だとよく言われます。集団の中にいても、個人はあくまで個人として、個性を持って存在しています。「組織の中では、全体の和を尊ぶために、個人には慎みと協調性が求められる」という日本の一般的な考え方とは対照的です(日本人の中にも、個性的で一匹狼のような人は多くいると思いますが)。どちらの考え方が良いかという事ではありませんが、ギャルドの奏者たちは、個性を持ってのびのびと、実に楽しそうに演
奏しています。彼らのステージに、いつも自由な雰囲気が漂っているのは、そのためです。私は、彼ら特有の自由な雰囲気がとても好きなのです。

 では、楽団という集団の中で演奏しているのに、何故一人一人がそのように自由でいられるのでしょうか。それを考える度に、私は、フランスでの事を思い出します。フランスで勉強していた頃、私は、作曲のレッスンの合間に、楽器専攻の学生たちのレッスンを聴講しました。教師は、生徒に指示やアドバイスを与えますが、それらはその教師の個人的な意見なので、必ずしも従う必要はないと言うのです。どう演奏したいか、生徒自身で考えなければなりません。それは、「無責任な自由」ではなく、演奏するための楽曲分析の能力をも要求された上での「責任ある自由」でした。ですから、演奏家は、技術が優れているだけでは不十分で、その音楽をどう表現したいのか、自分で演奏を構築する力を培うのです。大切なのは、演奏に個性がある事なのです。教師に倣い、その指示に従う事を善しとする東洋的な考え方との大きな隔たりに、私は大きなカルチャーショックを受けました。

 それは、作曲のレッスンでも同様でした。例えばフーガのレッスンで、理論に則って正しい音が書けていても、それを正しいと習ったから正しく書けただけではダメ。和声法や対位法の技術を修得した上で、信念を持って音を書いた事を示せなければ、先生は納得してくださらなかったのです。教えられた事を咀嚼し自分の物として、信念と責任を持って表現する。フランスでは、音楽に限らず、どの分野でも、そして、人生のあらゆる場面で、自分が「どうあるべきか」ではなく「どうしたいか」を示せることが大切だと考えられているのです。もちろんギャルドも、優れた演奏技術を修得した一人一人が、音楽の表現も自ら考え、信念と責任を持って各パートを奏しているのです。全員がその極みに達しているからこそ、一人一人は自由に、音楽の中で解き放たれているのでしょう。

 さて、4種類のプログラムが用意されていた今回の日本ツアー、バッハやガーシュイン、シュトラウス等の作品も含まれたプログラムはどれも魅力的でしたが、私は、自宅から最も近い姫路公演(11月2日、プログラム1)を聴きに行きました。ギャルドの演奏を聴くたびに(といっても、まだ3回目ですが)、その響きに聴き入ってしまいます。透明感のある軽やかで色彩豊かな響きが、重力に逆らって、余韻を残しながら空気の粒の中に吸い込まれていくような清涼感を覚えるのです。

 姫路公演の曲目は、ほとんどフランス音楽でした。特に私の印象に残ったのは、ラヴェルのバレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲と、同じくラヴェルの「ボレロ」でした。「ダフニスとクロエ」は、冒頭からの緊張感を途切れさせることなく、曲の終焉に向かって重厚さを増してゆきました。最後の盛り上がりは圧巻。恐るべき集中力だと思いました。「ボレロ」は、管弦楽法のお手本になるような作品で、楽器によっては音域の限界に挑戦しなければならない、奏者泣かせの曲です。それなのに、濃密さを失うことなく軽々と演奏されてしまいました。もう、溜息が出るばかりでした。唯一、「歌劇『トゥーランドット』セレクション」が、イタリア人作曲家プッチーニの作品でしたが、ブーランジェ楽長自身による編曲でしたので、これも半分はフランス音楽であると、勝手に拡大解釈しました。

 というわけで、私は「フランス音楽をギャルドによる演奏で聴ける幸せ」に浸りました。つまり「フランス語を母国語とするフランス人がフランス語を喋っている」ような、違和感の無い、いかにも自然でぴったりくる感覚を味わえたのです。とはいえ、他のプログラムにも惹かれます。ギャルドの奏でるドイツやアメリカの作品はどうだったのでしょうか。今回の日本ツアーで他のプログラムの公演を聴かれた方々のご感想も、ぜひ伺いたいと思っています。

 最後に私の事をひとつ。ギャルドの前回の来日ツアーを間近に控えた2001年10月、その直前にフランスのロベール・マルタン社から楽譜が出版されたばかりだった私の作品「海を渡る風」LES ALIZES が、ツアーの最後を飾る東京公演(東京芸術劇場大ホール、10月24日)のアンコール曲として演奏される事になったという知らせが、突然に届きました。陸上自衛隊第2混成団音楽隊(現在の第14音楽隊)からの依頼を受けて書いた作品なので、初演してくださった彼らの演奏を、今でも私は最も好んでいますが、その作品がギャルドによって演奏されたら、一体どんな響きになるのだろうと期待が膨らみました。
  ロベール・マルタン社にとっても、彼らの初めての日本人作曲家(しかも女性!)の作品をギャルドが日本で演奏するということで、当時社長だったマルタン氏が、フランスから東京までわざわざ演奏会に駆け付けてくださったのです。演奏会当日、いよいよ「海を渡る風」の時になりました。ブーランジェ楽長が指揮棒を振り降ろした途端…!…それは、まさに「想像外」の瞬間でした。楽譜の音を知り尽している作曲家本人にとっても、耳の奥で鳴っていた響きとは違う、想像を超えた美しい響きだったのです。設定テンポよりかなり速い演奏だったとはいえ、作品を熟知してくださっていたマルタン氏さえも「冒頭の数秒間、その曲だと分からなかった」ほどでした。演奏会後、楽屋でブーランジェ楽長にお目にかかり、私の感動とお礼を申し上げました。

 これまでに、ギャルドによって作品が演奏された日本人作曲家は何人もいます。その誰もが、多かれ少なかれ、私と似たような思いを抱いたのではないかと思います。とにかく、ギャルドの音楽は、世界に2つと存在しない別格の響きを放っているのです。

(2007.11.19)


 

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