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大阪市音楽団
第94回定期演奏会

ヨハン・デメイ作曲:交響曲第3番『プラネット・アース』
日本初演
(指揮/ヨハン・デメイ)

◎これぞ、ライブの醍醐味!
この初演をこの場で体験できた人々は、まさに幸いである!

 この日の公演以前に、私が同じ会場で“市音”(今は“大阪市音楽Daaaan !!!”と呼ぶ方がアップデートだろうか?)のライブを聴いたのは、2年前のことだった。あの“世紀の瞬間”、フィリップ・スパーク作曲の『宇宙の音楽』世界初演の場、である。そして今回、ヨハン・デメイの『プラネット・アース』吹奏楽版の日本初演・・・今世紀を代表し現在も精力的に作編曲作品を生み出している(しかも仲の良い友人同士の)この二大巨頭の、奇しくも、宇宙に題材を求めた新作が、それぞれ初演されるという貴重な場に居合わせることが出来たことは、大袈裟な例えではなく、私の生涯において大きな財産となったことは間違いない。

 否、「私の」などという、スケールの小さいことを言うのはよそう。会場にいた大阪市民の皆さん!私は皆さんが羨ましい!! “市音”が大阪にあるのだから! そしてこのエンヴィ(Envy)は、私だけではなく、いまや世界中のあちこちで囁かれているに違いないと思う。なぜなら、ヨハンやフィリップが、“市音”がどんなに素晴らしく特別なバンドであるかということを世界中で懇々と説いていることは疑いなく、それを聞かされている人々は相当数いるはずだからである。

 本公演は、まず、アメリカ・イリノイ州のノースショア・コンサート・バンドの委嘱によって2006年に作曲された『ウィンディー・シティ序曲』から始まった。5分少々の短さではあるが、その色彩感は豊かで、演奏者には高度な表現力と楽曲への理解力が求められる。“序曲”という言葉に油断するなかれ、まるで短編映画並みの密度でハイレベルの情景が繰り広げられる、非常にエネルギッシュな秀作である。こういう第1曲目を、色艶良く、見事に決めてしまうのが市音の凄さなのだ。観客の期待も、否応無く高まってしまうというものである。

 2曲目は、日本国内では当夜がプロフェッショナルによる公式初演となる、『エクストリーム・メイク・オーヴァー 〜チャイコフスキーの主題による変容〜』である。

 この曲も、とてつもない作品だ。第一、タイトルからしてとんでもない。ダイレクトに言ったら「過激な仕立て直し」などとも訳せるが、make-over には「新しいヘアスタイル・化粧法」という意味もある。いずれにしても、チャイコフスキーの有名曲「弦楽四重奏曲第1番:アンダンテ・カンタービレ」にはじまり、「第4番」「第6番」の交響曲や「ロメオとジュリエット」など、知名度の高い楽曲の断片を、クラシカルな作曲形式も踏まえながら大胆かつ斬新なその手にかけ、新しい吹奏楽曲として窯変させた・・・“窯変”は、本来ならば焼き物の上に作り手の予測しない色や相が現れることを言うのだが、予測していなかったのは、まったく我々の方である。

 元は、「ヨーロピアン・ブラスバンド選手権2005」の課題曲のために委嘱された作品で、デメイが初めて書いたブラス・バンド音楽である。この年の大会で、名門・ブラック・ダイクが久々のチャンピオンカップを勝ち取り、その舌を巻く見事な演奏は、DVDまたはCDで聴くことができるが、聴衆として興味を惹かれるのは、3楽章?で聞こえてくる奇妙な“笛”の音だろう。 これは実は“瓶”、ボトルなのだ。音程は、注水量で調律したり、大きさを選ぶことで調節している。D-E-Gis-A-H の音で2オクターブ分、つまり10本のボトルを、10人の木管楽器奏者(ブラスバンドの場合はもちろん、コルネット奏者をはじめとするブラス・プレイヤーたち)が、ハンドベル演奏のように、一人1音を受け持って「フォッ・・・フォッ・・・」と吹いていく。

 このレポートだけで想像されるとまるでイロモノのように思われるかもしれないが、さにあらず。「ホケトゥス」と呼ばれるこの技法を用いた音世界の、幻想的かつモダンな有様には、まったく瞠目してしまう。蛇足ながら、DVDを観るとブラック・ダイクでは、香水瓶やウィスキーのミニボトルといった小さい瓶をだいぶ使っているが、こちら市音では、ほとんどの奏者がワインボトルかせいぜい清涼飲用水の瓶だったように見受けられた。ブラス・プレイヤーと木管楽器(特にフルートの)奏者では息の使い方がだいぶ違う、ということが良く分かるエピソードかもしれない。

 “原曲”ではコルネット・テナーホーン・ユーフォニアムのアンサンブルではじめられた冒頭の主題が、吹奏楽版ではサクソフォン・カルテットによって、清廉に奏でられる。そこへ、オーボエやファゴット、クラリネットが次々と、完璧な美しさと静けさを持って寄り添うように加わっていく様を見ただけで、「ブラスバンド版と吹奏楽版の両方がこの世に生まれて良かった!」と思ってしまう。これは、いわゆる“管弦楽やその他の銘曲を吹奏楽に移した…”ということとはは全然次元の違う話である。二つのバージョンは、生まれるべくして創造されたのだ。そしてこの吹奏楽版も、吹奏楽ファンだけのネタにしていてはもったいない。この日の市音のような、こういった演奏こそ、「オーケストラといえば弦楽器の入ったモノで…」と思っている人々に聴かせてあげたい! この日の演奏はまさしく、市音というひとつの“オーケストラ”の、記念碑的作品展だったのだから。

 しかし演奏会は、ここで前半が終わったのみ、、、後半には、本公演の目玉『プラネット・アース』が待っている。そこで聴衆は、また一つの歴史的現場に居合わせることになるのである。

 実は私は、2004年2月の交響曲第1番『指輪物語』管弦楽版日本初演の現場にも立ち会わせていただいた幸せな人間である。その時ヨハンはすでに、「今、第3交響曲を書き始めている。それは、ホルストの『惑星』の後継作となるように考えているんだ。『惑星』は女声コーラスで終わるだろう? 私のシンフォニーは、そこから始まるんだよ。そして、ホルストが書いたのと同じ規模の、大編成オーケストラで作曲するんだ、オルガンも使って、、、そう、ホルンは6本使ってね!」と語っていた。

 1988年に発表された『指輪物語』と1993年発表の第2交響曲『ビッグ・アップル』は、いずれもオリジナルが吹奏楽版であるが、三つ目のシンフォニーは管弦楽で書くという、、、それは、委嘱元が北オランダ管弦楽団の芸術監督であったこともさることながら、ホルストが書き終えたところから引き継いで、「この偉大な作曲家が書かなかった『地球』への頌歌を完成させたい」という考えに、自ら強く突き動かされたからに違いないと、私は勝手に思っている。本人の談によれば、委嘱のリクエストを受けたのは2001年だったという。そして作曲に要した年月は、およそ3年間だったとのこと…ファンも、待ち焦がれた甲斐がある、というものである。

 果たして待望の日本初演は、、、大阪ハインリッヒ・シュッツ室内合唱団の秀逸かつハイレベルなコーラスも伴って、壮麗に、そして大いなる活力をみなぎらせながら、生命への讃美を高らかと歌い上げる。鳥肌が、治まらない。。。現世では、確かに地球上には残念な問題がさまざま溢れている。しかし本来は、地球に生きるということは、こういう音に満ちていて欲しい、こういう色彩で溢れていて欲しい、、、そんなメッセージすら感じられるような、熱演だった。こういう演奏こそライブの醍醐味であり、それをその場で体験できた人々は、まさに幸いなのである!

 ヨハンは言う、「私自身とても前向きな性格だけれど、『ヒトには“善意”がある』ということも、強力に信じているんだ」・・・その彼の気持ちは、指揮振りにもしっかり現れていたと思う。彼は、他人の作曲した音楽を振る“職業指揮者”ではない。当然、自分の書いた楽譜に対して、冷静さよりも情熱が勝ってしまう部分はあっただろう。しかし、そのヨハン・デメイの愛とパワーを、市音は確かに受け止め、もの凄いエネルギーで音として体現していた。それが、ヨハンが市音を称して「Royalなバンドだ!」と絶賛する所以なのだろうと思う。

 ところで、ここで是非、当夜の市音のセッティング図をご覧いただきたい。(注:ただし、これは私がゲネプロ中に勝手にスケッチしたもので、市音の公式発表図ではありません。悪しからずご了解ください)。ステージ上手を見るとそこには、そう、チェロが4人!も座っているのだ。スペインで行われた吹奏楽版世界初演では7人いたそうである。ユーフォニアム奏者としては、正直これは、ちょっと複雑な気分ではある。いわゆるオーケストラ楽曲のトランスでは、チェロのパートをユーフォニアムやサクソフォンに頂戴するのがいわば定石ではないか、それなのに、そのまんまチェロが陣取っているとは・・・しかし、悔しいけれど、聴いた途端に「素敵…」と思ってしまった。特に、ピアノやハープやダブルリード楽器とアンサンブルになった時、その“波立たない”美しさには、作曲者が他の楽器にトランスしようと思いもしなかった“理由”を見た気がした。

 しかし、このセッティングはユーフォニアム奏者にはキツい・・・ユーフォニアムがステージの下手端に配置されること自体は、オランダの吹奏楽では伝統的なことだそうだが、今回の曲は普通のモノではないのだ。前方に大きな木製の共鳴体を持ったチェロが立ち?はだかり、右からは3台のテューバ(しかも当夜は、全部ヨークモデルで揃えられた重量級一個分隊)が砲門をこちらに向け、そのすぐ後ろにはコントラバス、さらに、この図には記入していないがユーフォニアムの背後には、SE用の巨大スピーカーが鎮座していたのだ、、、この状態で、ppでホルンとトウッティ、などという局面が出てきたら、、、もう、想像するだけでコワい、おそろしい! このキビしい配置で、超ファインプレーを成し遂げておられた市音のユーフォニアム奏者のお二人に、心から敬意を表します!!

 そのチェロだが、もし誂えられなくても、この交響曲の演奏は可能だと、ヨハンは言う。チェロの大事なフレーズは、サクソフォンやユーフォニアムやその他の楽器のパート譜に“きっかけ”として記入されているから、それを演奏してくれれば音は足りる、とのこと。また、オルガンも、曲の終盤で演奏効果を高める大きな役割があるものの、使用しなくても構わないだろうとのこと。ただし、合唱は、当然のことだが、絶対に必要不可欠だ。もし良い歌い手に恵まれなかったら…2楽章だけならば演奏しても良いが…とは本人の弁である。この曲にチャレンジしようとする団体があれば、是非、この点に留意して欲しいと願う。

 人には、多かれ少なかれ“欲”がある。ヨハンの言うように、ヒトは基本的に善人である、と信じるなら、その欲求も無邪気なものであって欲しいと思うが、私からヨハンへ欲を言わせてもらえるならば、なるべく近い将来、『交響曲第4番』の初演に、また立ち会わせてちょうだい!とお願いしたい。そして、その演奏団体には、絶対に市音を指名して欲しい。日本初演はもちろん、世界初演ならなお結構!である。彼の next to は何なのか、残念ながら今回訊きそびれてしまったので、第4交響曲が生まれるのかどうかすら私は定かではないが、しかしきっと、世界中の善男善女・善ファンは、待っているはずだ。それまでは、近く発売されるであろうこの日のライブ収録CDを、繰り返し聴くことで我々は、この地球に生きている喜びを噛み締めよう!

関連記事

「ヨーロピアン・ブラスバンド選手権2005」 DVD
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/dvd-9079/

「ヨーロピアン・ブラスバンド選手権2005」 CD
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0810/

大阪ハインリッヒ・シュッツ室内合唱団
http://www.collegium.or.jp/html/KAMMERCHOR.html

『プラネット・アース』吹奏楽版世界初演の記事
http://www.bandpower.net/news/2007/06/04_maij/01.htm

■関連記事
【BP-TV】ヨハン・デメイ スペシャル・インタビュー/交響曲第3番『プラネット・アース』について語る
http://www.bandpower.net/news/2007/07/03_meij_interview/01.htm


(2007.07.04)


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