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パーカッシヴフォース 九州縦断ツアー最終公演(鹿児島)


photo (C) 2007TDW

打楽器の素晴らしき世界! 日本中の中高生に見せたかった!

 私は「音楽ライター」などと名乗っているが、実はただの道楽者だから、打楽器の世界にどんな曲があって、どれだけ演奏の機会があり、どれほどの聴衆がいるのか、そういうことにはあまり感度がない。

 だから、九州を中心に活躍する打楽器奏者4人組「パーカッシヴフォース」(PF)の九州縦断ツアー最終公演(鹿児島)を、たまたま聴いて(観て)、度肝を抜かれたのも「いままでアンタが知らなかっただけだよ」と一笑に付されるかもしれない。でも世の中は、たぶん「打楽器マニア」よりも、そうでない人たちのほうが多いはずなのだ。そして道楽者の私は「打楽器マニアでない人たち」の立場にいると信じている。

 以上の言い訳を前提にPF鹿児島公演のレポートを書く。

 PFについては、BPニュースのバックナンバーをご覧いただきたい。
 http://www.bandpower.net/news/2006/12/09_tomita/01.htm

▲会場の目の前に広がる桜島
photo (C) 2007TDW
 
 

 実は今回、私は、この公演のプログラム解説を依頼され、書いていた。だが私は東京在住である。とうてい公演には行けないだろうと思っていた。ところが、たまたま同時期に九州で別の仕事があったので、やりくりすれば最終日の鹿児島公演(土曜日の昼間)に寄れそうだった。しかも、ツアー中、この公演だけが鹿児島県立松陽高校吹奏楽部との共演だという。松陽高校はコンクール全国大会3年連続出場の名門であり、私は昨年の普門館で、その雄姿もナマで見ていた。そこで興味をそそられて、強行軍だったが鹿児島へ駆けつけたのである。

 会場の鹿児島市民文化ホールは、鴨池港のそばにあり、白煙を噴く桜島を目前にいただく、素晴らしいロケーションに位置する会場だった。

 演奏曲目は、以下のとおり。

(1)ハーマンへの挨拶/ブロッドマン(PF)
(2)飛天生動V/石井眞木(マリンバ独奏:島田亜希子)
(3)サーティーン・ドラムス/石井眞木(打楽器独奏:山口大輔)
(4)ヴェロシティーズ/シュワントナー(マリンバ独奏:岩崎雅子)
(5)グラウンドT/福士則夫(打楽器独奏:冨田篤)
(6)交響曲第2番〜アダージョ/ラフマニノフ(鹿児島県立松陽高校吹奏楽部:立石純也・指揮)
(7)コンチェルティーノ〜4人の打楽器奏者とウィンドオーケストラのための〜/ギリングハム(PF+鹿児島県立松陽高校吹奏楽部:立石純也・指揮)

 (1)は4人全員のドラム・アンサンブルで、以後、1人ずつソロ曲を演奏。最後に松陽高校との共演という趣向である。

 まず、4人各々のソロ(つまり4曲)で驚いた。これらは打楽器界では「名曲」なのだという。私も解説を書く手前、CDやスコアなどで「音」や「音符」だけは確認していた。しかし、打楽器曲は、「聴く」だけではダメで、「観る」ことで初めて理解できることを、身に沁みて感じた。

 女性奏者2人は、マリンバ独奏曲を演奏した。島田亜希子による(2)≪飛天生動V≫と、岩崎雅子による(4)≪ヴェロシティーズ≫。もちろんどちらも超絶技巧曲である。打楽器オンチの私からすれば「よく、あんなことができるもんだ」の連続で、美しい高音、低音の驚くほど豊かな響き、目にも留まらぬスピード・フレーズ……そして緊張感。たいへん心地よい響きを聴かせてもらった。

 ここで私は「パーフェクションPF3000シリーズ」のマリンバを、初めて、そうと意識して聴き、観た。福井の鍵盤打楽器メーカー「こおろぎ社」が製作した、トップレベルの国産名器である。鍵盤以外の部分(フレーム部など)がたいへんシンプルで、いままで見たマリンバとはちょっと雰囲気が違っていた。付加物を減らすことで音板の振動をよくさせる構造らしい。ホンジュラス産ローズウッドから、最も木質のいい部分、木目の揃った部分だけを厳選してつくられたのだという。これが、実に素晴らしい音色だった。

 男性奏者2人は、ソロで複数打楽器を駆使する難曲に挑んだ。山口大輔が演奏したB≪サーティーン・ドラムス≫。13種類の膜質(皮貼り)打楽器を、1人で、ひたすら叩きまくって細かいリズムの饗宴を爆発させる曲だ。膜質打楽器には、当然、音程の高低差があるので、どこか、リズムに重なってメロディの香りが漂う。そこが曲の魅力にも感じられた。

 ソロ曲の最後、PFリーダー格の冨田篤による、(5)≪グラウンドT≫。これには、さすがに道楽者の私も度肝を抜かれた。

 奏者の周囲には、何と「23種類」の打楽器が置かれたり、ぶら下がったりしている(中には「打楽器」と呼んでいいのか分らないモノもある。たとえば仏壇用の「鈴:りん」や、乳児のオモチャ鉄琴とか)。それらを、数種類のスティック・マレット・掌・指・爪・足で……叩き、殴り、さすり、撫ぜ、引っ掻き、擦り、蹴り…・・・もっとほかの奏法もあったかもしれない。とにかく、人間が手や足でできるあらゆる手段が使用され、不思議な音空間が奏でられるのだ。いま、こうやって文章で記していると、何だか国語辞典をめくっているようで、曲自体が「文学」と表裏一体のようにさえ思えてくる(いま話題の『日本語は天才である』著者、柳瀬尚紀氏に評してもらいたい!)。冨田は、人間が持つ無限の可能性を、打楽器で伝えようとしているようだった。「できないことは、ない」「既成概念にとらわれるな」と。この曲が、しばしば海外のコンテストで課題曲になっているのも分るような気がする。

 最後は、松陽高校との共演。(7)ギリングハム≪コンチェルティーノ≫である。4人の打楽器奏者とウインド・オーケストラのための曲で、かつて神奈川県立厚木西高校が取り上げ、CD化もされたが、私はナマ演奏に接するのは初めてだった。

 4人は、それぞれが複数の打楽器を担当する。おおむね女性陣が鍵盤打楽器類、男性陣がドラム類。ギリングハム特有のメカニックな音のぶつかり合いが、バンドと重なり合って、壮大なクライマックスを形成する。PFも見事だったし、彼らの超絶技巧を引き立てる松陽高校吹奏楽部、立石先生の指揮も見事だった(さすがに全国大会常連バンド、実によく鳴る)。

 曲としては、「多目の打楽器が大活躍する吹奏楽曲」といった趣きもあるので、コンクール自由曲などにも使えるのではなかろうか(すでに登場している地区・支部大会もあるかもしれない)。

 会場には、鹿児島周辺の中高吹奏楽部らしき若者がたくさん来ていた。彼らは幸せだ。きっと、打楽器のイメージを一新させられたことだろう。普段、打楽器奏者はすべての曲に参加できず、ステージ下手後方で控えていることが多い。田中賢≪メトセラU≫みたいに、多くの打楽器奏者が主役級になれる吹奏楽曲は、めったにない。しかしこの公演は、彼らにも見事な地平(グラウンド!)が用意されていることを示したはずだ。

 この種の公演が、東京周辺で頻繁にあるのかどうか、そんなことすら私は知らない。その上で言うのだが、この日の公演を、ぜひ、日本中の中高生に見せたいと思った。「こんな難しい現代音楽、いまの中高生に分るわけない」と言われるかも知れない。だが、私はそうは思わない。若さだけが持つ感受性の高さを、青臭いと言うだろうが、私は信じている。大人が抱えているものを、もっと若い世代に解放するべきではないか。「今後、こんな素晴らしい世界が君たちを待っているんだよ」と知らせないから、人生には絶望しかないのだと思い込み、若者たちは惨事に身を染めてしまうのではないか。大人がヲタクになって喜んでいてはいけない。教え、伝えてあげよう。それには、CDなどの「音」で聴かせているだけではダメだ。ナマで、大人が、命をかけて――たとえば「23種類の打楽器を1人で演奏している」現場を見せなければダメだ。

 最近は「響宴」や「吹楽」のように吹奏楽界が結集する機会が多い。大音響・大編成もいいが、こういう現場を中高生に提示することがあってもいいのではないか。PFの捨て身とさえ思える公演に接して、そんなことすら感じた。

 九州在住の中高吹奏楽部、特に打楽器パート諸君! もし今後、PF公演の情報を見たら、何があろうと駆けつけていただきたい。そして、打楽器とは、あなたたちが想像もしなかった曲や奏法がある、果てしない世界であり、素晴らしいパートを選んだのだということを、目と耳で確認していただきたい。パーカッシヴフォースの4人は、その生ける証拠なのだ。
<敬称略>

(2007.03.27)

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