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リベラ・ウィンド・シンフォニー
旧奏楽堂コンサート〜吹奏楽による「奏楽堂にゆかりの作曲家たち」

ステージ全景(市川氏撮影)
◎自国の文化を知らずして、文化が育つわけがない。
  なぜなら今回の曲が日本の文化そのものだからです

2006年5月7日に上野公園内にある旧東京音楽学校奏楽堂で行われた『旧奏楽堂コンサート〜吹奏楽による「奏楽堂にゆかりの作曲家たち」』を聴いてきました。
 演奏はリベラ・ウィンド・シンフォニー(以下、リベラWS)、指揮はこのジャンルに造詣の深い福田滋氏でした。リベラWOの紹介はこの団体のホームページに譲るとして、当日の模様を中心にレポートします。

プログラム(奏楽堂コンサート/写真提供:北浦(早坂)絃子
趣のある奏楽堂正面全景
奏楽堂ステージで熱演!
 
眞鍋理一郎氏によるレクチャー
演奏に満足そうな満員の聴衆
演奏後、拍手を受ける

 会場は日本最古の木造の洋式音楽ホールであり、国の重要文化財に指定されている「旧東京音楽学校奏楽堂」でした。滝廉太郎や山田耕作など日本の近代音楽の礎を築いた先人達も演奏したこの由緒正しきホールで、これまたこのホールにゆかりのある日本を代表する作曲家の作品が吹奏楽で聴けるという画期的な企画でしたので、聴衆の入りも満席状態で一部立ち見が出るほどでした。各界の著名人や作曲者のご家族なども多数来場されていました。

 今回の司会・ナビゲーターは團伊玖磨吹奏楽作品集のライナーノーツを書いている音楽評論家の西耕一氏。軽妙な話術で各作曲者のプロフィールや作風などをわかりやすく解説していました。

 1曲目は、矢代秋雄が三重県国民体育大会のために作曲した「ファンファーレ」を演奏しました。20秒という短い時間の中で、ただ華やかなわけではない、落ち着いた作風が良いですね。楽譜は矢代夫人の提供によるものでした。

 続いて3人の会の作品が演奏されました。
 最初は、芥川 也寸志。「東京ユニバーシアード・マーチ」と「交響曲第1番より第4楽章"アレグロ・モルト"」が演奏されました。

「東京ユニバーシアード・マーチ」は、氏のマーチ作品である「マーチ1979栄光をめざして」と「風に向かって走ろう」等の作風に通ずる作品でしたが、旋律や構成が実に見事で、とても聴きやすい作品でした。

 交響曲第1番は「3人の会」第1回公演で発表され、後に改作されたものですが、それを指揮者の福田氏が吹奏楽に編曲しました。福田氏曰く「練習やリハーサル時間が十分に取れなかったので交響曲は空中分解する可能性も・・・」と言っていましたがどうしてどうして。演奏者もこの曲の速さやテンションの高さ、アンサンブルの難しさを知ってか緊張した中演奏は始まりましたが、それらの緊張感が良いほうに作用していました。うまく表現できませんが、音符が立っているというか、演奏者のこの曲に賭ける姿勢が演奏に出ていて、音楽の推進力が聴衆に伝わってくる素晴らしい演奏となりました。

 続いて、黛敏郎の『交響詩「立山」〜テーマとセレクション』が演奏されました。
 本来は「大地」「祈り」「道」から構成される曲ですが、それを作・編曲家の辰野勝康氏が1981年に海上自衛隊東京音楽隊の依頼によりテーマと各主題をセレクションして編曲した版が使用されました。非常に幅広い表情豊かな曲でした。大自然の素晴らしさと四季折々の自然の美しさ、山の荘厳さなど感動的に表現されていました。編曲をした辰野氏は当日都合がつかず来場されませんでしたが、後日小生が連絡を取ったところ、「演奏会のご案内も頂き「昔の恋人」にでも会うような気持ちで楽しみにしていたのですが、いけなくて残念」とおっしゃっていました。できれば芥川・團氏の行進曲があるのだから黛氏の行進曲(「黎明」や「祖国」など)も演奏して欲しかったのも正直な気持ちでした。

 そして、團伊玖磨。米国太平洋艦隊のために作曲された『行進曲「パシフィック・フリート(太平洋艦隊)」』と「吹奏楽のための奏鳴曲より第1楽章」が演奏されました。
「パシフィック・フリート」は構成ががっしりしている印象を受けました。この曲は氏の行進曲作品の中では、曲時間も規模も最大級に属するものではないでしょうか(8分を優に超える)。いきなり旋律から始まりますが、直ぐに團氏特有のリズム(付点八分音符+十六分音符+四分音符×2+四分音符4つ)が聴こえてきました(新祝典行進曲やブリヂストンマーチにもこのリズムは多用されている)。芥川氏の行進曲は流麗な感じでしたが、團氏の骨太な剛直な作風との対比も面白かったですね。

 そして、幻の名曲と言われ、長い間演奏されなかった「吹奏楽のための奏鳴曲」。1976年12月の東京吹奏楽団の定期演奏会で初演され、その後1985年の全日本吹奏楽コンクール職場の部で九州代表ブリヂストン吹奏楽団久留米が第1楽章を演奏しましたが、残念ながら銀賞だったため当時音源が市販されず聴くことすらもできませんでした。昨年リベラWSにより全曲レコーディングされ一般に聴けるようにはなりましたが、生で聴けるのは大変貴重な機会でした。沖縄民謡を用いている旋律を使用していましたが、お洒落なテイストを持ちながらも一大交響詩のような印象も受けました。このような素晴らしい曲を吹奏楽のために残してくれた團先生に感謝するとともに、これを再発掘し、再演した福田&リベラWSに改めて拍手を贈りたいと思います。

 休憩を15分はさんで、作曲家の別宮貞雄氏と眞鍋理一郎氏のレクチャーを交えながら、それぞれの曲が演奏されました。

 まずは、別宮貞雄氏がステージに登場し、ナビゲーターの西耕一氏とトーク開始。映画音楽を作曲するようになった経緯や今回演奏されている同年代の作曲家たちのエピソードが興味深かったですね。ちょっとトークの時間が長かった感じもしましたが、氏の人柄に触れられた時間は貴重でした。
 トークに続いて、氏の『組曲「映像の記憶」』T.マタンゴ、U.黒い樹海、V.遥かなる男、W.鍵の鍵が改訂初演されました。氏の愛着のあった映画音楽の旋律を元に構成された作品でしたが、ポピュラー要素の強い作品で、とても楽しめました。ストリングベースとフルートのソロから始まる「U.黒い樹海」はとても印象的でした。また、サクソフォーン群の技術の高さも目を見張るものがありました。

 続いて、数々の映画音楽を作曲している眞鍋理一郎氏がステージに登場。別宮氏とは対照的にとても(!)短いトークでしたが、これまた人柄に触れた一瞬でした。曲は今回の演奏会のために作曲された『三つのマーチ』T.マーチX《未知》、U.マーチY《葬送》、V.マーチZ《再生》が初演されました。氏は今回の曲を「マーチめちゃくちゃ」と言って謙遜してステージから降壇されていましたが、曲のほうは極めてシリアスというか、今までの吹奏楽作品には無い曲のように思えました。特にマーチYで冒頭に低音楽器で演奏される「A−G−F−E−E♭−D♭−C♭−B♭」の旋律がとても印象的で、いまだに思い出すくらいインパクトの強い曲でした。

 演奏会の最後は、惜しまれつつ今年2月に逝去された伊福部昭の「吹奏楽のためのロンド・イン・ブーレスク」が初演時の譜面を用いて演奏されました。演奏する側もポイントを心得ているのでしょう。伊福部ボレロといわれる強烈なリズムが、天国の先生に届けといわんばかり会場に響き渡りました。コンサートの最後を飾る素晴らしい演奏でした。

 アンコールは、芥川也寸志の「赤穂浪士」のテーマ音楽が演奏されました。往年の大河ドラマを思い出す素晴らしい編曲・演奏でした。それにしてもリベラWOはタフですね。これだけの作品を立て続けに演奏しても決して破綻することなく、忠実に作曲者の意図を汲みながら曲を展開していったのは見事でした。

さて、全て聴き終えて今回の演奏会にはいくつかのポイントがあると感じました。

【1】会場が貴重な旧東京音楽学校奏楽堂であったこと。
【2】日本の大家の吹奏楽作品が演奏されたこと。
【3】作曲家のレクチャーを交えて、作品が演奏されたこと。
【4】楽譜の出版社やCD会社などがタイアップしていること。
【5】今回のような企画に真摯に取り組む関係者の努力と熱意があったこと。 

 特に【2】については、最近の吹奏楽界の流れの中では全く持って興味を示されず、派手なサウンドで多様な打楽器などが活躍し、最後にコラールなどで泣きを誘う(!)パターンの作品(編曲作品含めて)が隆盛を極めており、現代の作曲家もそれに追随するような動きがありますが、このような動きに警鐘を鳴らす意味からも、今回の企画は大変意義深いものであるといえます。

 また別の角度から見ると、最近、小学校で英語を必修化しようという動きがありますが、これが吹奏楽の世界にも当てはまるのではないかと思います。日本語も満足に(さらには乱れて)話せないのに、英語を必修化するとは何をかいわんやであると思います。自国の行進曲を演奏しない、邦人作品を演奏しないというのは指導者や指揮者の見識の問題であると思います。自国の文化を知らずして、文化が育つわけがありません。なぜなら今回の曲が日本の文化そのものだからです。
 これは吹奏楽界だけの問題なのかどうかわかりませんが、日本の音楽業界の流れから見てこのような大家の作曲家の作品を演奏しないことは、現代に生きる我々にとって大きな損失であり、後世に対しても貴重な作品群を埋没させることに繋がります。指導者や指揮者はこれらの作品に対する認識を新たにし、その必要性を認識すべきと考えます。
そのためには、【4】のように楽譜が整備されていくことは必須条件であり、さらなる整備も求められるところですが、今回後援している企業の理解ある姿勢は大変ありがたいことだと思います。

 またなんといっても【5】にあるとおり、関係者の方々の情熱がこの日のコンサート開催、そして成功という形で結実したのだと思います。どうしても最近の吹奏楽の流れに流されてしまいがちですが、一貫してこの姿勢を貫いているところに多くの共感を持った聴衆が集まったのだと思います。特に指揮者の福田氏の造詣の深さと熱意によるところが大きいのだと思います。この方が居なかったらこのような一連の企画・活動は成功していないでしょうし、作曲者の遺族など協力も得られなかっただろうと思います。本当に頭の下がる思いがします。

 ただし、課題がなかったかというとそういうわけではありません。いくつか課題を挙げてみます。

【1】聴衆の層が偏っていたのではないか。
・・・数人若い人は見かけたものの、あとはこの分野の関係者や熱烈な愛好家がほとんどで(私もそのひとり)、一般の方は無理でも吹奏楽に携わっている若い人などをどう集客するかが課題となりそうです。そういう聴衆が増えることによって作品の演奏機会も増えることにつながると思います。

【2】選曲の難しさ
  この手の企画は、こだわりを持ってやればやるほどマニアックな曲が並んでしまう  
 という傾向があります。
 ただこれだけは申し上げておきたいのは、今回の曲目は決して堅苦しい選曲ではなかったということです。通常の音楽会として十分楽しめる内容であったと思いますが、食わず嫌いなのか曲目を見ただけで一般聴衆が関心を示さなかったのも事実のようですね。それとも今回の選曲を持ってしても堅苦しさが残るのか。これは他の人たちの感想も聞いてみたいところですね。そのため、ぜひ、プログラムにアンケート用紙を入れて欲しかったですね。

【3】吹奏楽に関わる人たちへ
  これは今回の演奏会に対してではなく、現代の吹奏楽に携わる人たちへのメッセージです。もし今回のリベラWSなどの活動に少しでも共感を覚えるなら、自身の演奏団体で邦人マーチや邦人作品を積極的に取り上げてみてはいかがでしょうか。別にマニアックなものを取り上げろとはいいません。部室や楽譜棚には古い邦人作品や行進曲の譜面があるはずです。是非演奏してその時代の日本音楽文化の継承者となってください。このままでは往年の大家の作品群は絶滅品種(?)となってしまいますので。

 ということで、長文書かせていただきましたが、ぜひともこの演奏会が第2回・3回と続けて開催されることを期待するとともに、このような活動の和がさらに広がっていくことを願ってやみません。

■関連記事
http://www.bandpower.net/news/2005/06/01_dan/01.htm

■プログラム

ナビゲーター:西 耕一(音楽評論家)

第1部
・ファンファーレ/矢代 秋雄
・東京ユニバーシアード・マーチ/芥川 也寸志
・交響曲第1番より第4楽章"アレグロ・モルト"
  /芥川 也寸志(福田 滋編曲)
・交響詩「立山」〜テーマとセレクション/黛敏郎(辰野 勝康編曲)
・行進曲「パシフィック・フリート(太平洋艦隊)」/團 伊玖磨
・吹奏楽のための奏鳴曲より"第1楽章"/團 伊玖磨(時松 敏康編曲)

第2部
作曲者によるレクチャー:別宮 貞雄、眞鍋 理一郎
・組曲「映像の記憶」(−改訂初演)
  T.マタンゴ、U.黒い樹海、V.遥かなる男、W.鍵の鍵/別宮 貞雄
・三つのマーチ(−初演) T.マーチX《未知》、U.マーチY《葬送》、V.マーチZ《再生》/眞鍋 理一郎
・吹奏楽のためのロンド・イン・ブーレスク/伊福部 昭

アンコール
・ NHK大河ドラマ「赤穂浪士」のテーマ音楽/芥川 也寸志(福田 滋編曲)

※当日のライブCDの発売が決定しました。詳細は後ほど下記のサイトでお知らせいたします。

スリーシェルズ http://3s-cd.com/index.htm

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