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〜親に経済的な負担をかける事なく、
音楽教育が、国全体のシステムとして成り立っている
〜フランスの音楽教育システム

 吹奏楽に係わっておられる方々であれば、多分、オランダのデ・ハスケ社という音楽出版社の名前をご存じか、あるいは、その出版社の楽譜やCDを購入されたことのある方も多いかと思います。
 このデ・ハスケ社から、最近、日本人作曲家ばかりの吹奏楽作品が収録された「森の贈り物」(Legacy of the Woods) というCDがリリースされました。幸運な事に、そのCDの中に、私の作品である「青銅のイノシシ」(Il Cinghiale di bronzo) という組曲が収録されていますので、吹奏楽ファンの方々の中には、もしかしたらこのCDを通じて、私の名前を目にしてくださった方がおられるかもしれません。

 私は、吹奏楽やアンサンブルのための作品をよく書いています。それらの作品の楽譜やCDが、これまでにフランスや日本で出版、リリースされています。でも、作曲家ですから、吹奏楽関係の作品ばかりではなく、管弦楽、楽劇、室内楽、合唱曲、さらには、映像作品の音楽やテレビドラマの音楽に至るまで、色々な分野の音楽に取り組んでいます。

 それらの作曲活動のひとつとして、ロベール・マルタン社、ジェラール・ビヨドー社、ピエール・ラフィタン社といった、フランスの音楽出版社からの依頼で、フルートやヴァイオリンのような楽器のためのコンクール向きの小品(ピアノ伴奏付き)を頻繁に書いていて、それらはフランスで出版されています。こういった、ピアノ伴奏付の小品は、日本ではあまり需要がないようですが、フランスでは、大変需要の多い分野です。

 そのようなフランスで出版された私の作品の中から、今年度のフランス音楽連盟 (Confederation Musicale de France) 主催の各楽器のコンクールの課題曲として、フルートやヴァイオリン、アルト・サクソフォーン等のための作品、7曲が選定されました。コンクールは、ヨーロッパの学年末(5月-6月)、フランス全国の音楽院で一斉に行われます。

 ここで、少し、フランスの音楽教育について触れてみたいと思います。
 フランスでは、各都市に、小学校や中学校とは別に公立の音楽院があり、学校と並行して誰でも音楽院で音楽を学べます。生徒さんは、自分の好きな楽器のレッスンを受けられ、それと並行して、音楽の基礎であるソルフェージュも習います。楽器やソルフェージュの他にも、室内楽、吹奏楽、管弦楽などのクラスがあります。
 授業料は無料か、それに近い料金です。日本のような楽器店の主催する音楽教室はありませんし、ピアノやヴァイオリンの先生のお宅にレッスンに行くということも、滅多にありません。

 音楽院で教えている先生たちは、皆、音楽の専門教育を受けた正式なプロフェッサー、即ち、教授です。そして、各地の音楽院を優秀な成績で卒業した生徒さんが、パリ国立高等音楽院やパリ・エコール・ノルマルといった、日本でも知られている上級の音楽院へ進み、プロの音楽家を目指してさらに勉強するわけです。
 そういうわけで、生徒の親に経済的な負担をかける事なく、音楽教育が、国全体のシステムとして成り立っているのです。

 音楽院には、小・中学校のような年齢別の厳格な意味での学年ではありませんが、やはり音楽の学校としての学年が存在し、学年末にはコンクールや試験が行われます。そのために課題曲が選定されるのですが、できるだけ出版されたばかりの新しい作品を選ぶという進歩的な方針のようです。
 ですから、音楽出版社は、作曲家に作曲を依頼し、出来たばかりの楽譜を音楽連盟の課題曲選曲委員会に提出します。
 作曲家自身は、自分の作品が委員会に提出された事は案外知らないままです。けれども、各楽器ごとの課題曲選定に際し、フランスだけでなく、ヨーロッパ中の何百という音楽出版社から提出される膨大な数の作品の中から、厳正な審査を経て課題曲が選ばれるわけですから、この選定こそが、作曲家のコンクールになっていると言えるでしょう。

 さて、先程も申し上げましたように、今年度(2006年)、私の7曲の作品が、フルートやヴァイオリン、ユーフォニアム等の課題曲に選定されました。私の作品が課題曲に選定されたのは、今回が初めてではなく、2000年に吹奏楽のための組曲「旅人」の第1楽章「青い風」(ロベール・マルタン出版社)が、吹奏楽コンクールの課題曲に選ばれたのを初めとして、それ以来、毎年のように幾つかの作品が選ばれています。経歴や国籍に関係なく、作品の質そのもので課題曲を選定するという、委員会の公平な態度のお陰です。

 これまでに課題曲に選ばれた私の作品のひとつに、フルートのための「クスコの月」(同じくロベール・マルタン出版社)という作品があります。これは、楽器を始めて3年目くらいの生徒さんたちを対象にした作品です。フルートの音色をアンデスの楽器、ケーナの音色に見立て、古代インカ帝国のアンデスの山々をイメージしたペルー風の曲です。この曲は、ピース版(1曲のみの薄い楽譜)でも出版されましたし、「いたずらフルートの旅」(模範演奏、ピアノ伴奏CD付)という曲集にも収録されて出版されました。
 フルートは、フランスでも人気が高く、そもそも生徒数が多い楽器ですが、コンクールの課題曲に選ばれたお陰で、「クスコの月」は、3年間ほどの間に、ピース版と曲集あわせて、7,000部を越す売り上げを上げ、楽譜の業界としては、異例の大ヒット作となりました。
 フランスは、音楽著作権についての法制度が整った国ですので、楽譜が違法にコピーされるようなことはなく、生徒一人ひとりがちゃんと楽譜を購入してくれます。ですから、音楽出版社としては、売り上げに直接結びつくわけですから、課題曲に選ばれるような作品を書いてくれる作曲家と良好な関係を保ちたいと思っているわけです。

 ところで、「課題曲に選ばれるような曲」といっても、書くためにはそれなりのコツが必要です。私が、これまでの経験から、私なりに幾つかの課題曲としての条件を考えるようになりましたので、少し述べてみます。

 まず、作曲家として当たり前の事ですが、作品を書こうとしている楽器のことを分かっていなければなりません。そして、楽器を始めて何年目くらいの生徒さんを対象にしている曲を書くかによって、曲の長さ、難度、管楽器の場合は、対象となる年齢の息の短さを考慮しなければなりません。
 それから、1曲の中に、統一感を持たせながらも、教材としての色々な要素、即ち、幾種類かの奏法やリズムが入っていること。つまり、生徒さんが繰り返し練習している間に、自然に演奏の技術が習得できる曲であるよう配慮されていなければなりません。
 さらに、楽曲としての構成がしっかりしていること。即ち、フレーズの組み立てや転調経路が明瞭で、楽式の勉強ができる曲であるということです。そして、何より大切なのは、飽きることなく何度でも演奏したいと思ってもらえるような、生徒さんたちにとって魅力的な曲でなくてはなりません。
 ピアノ伴奏については、難度の制限はありませんが、生徒さんにとってみれば、折角練習するのですから、同じ音楽院に通うお友達に伴奏してもらって、生徒さん同士で一緒に演奏して練習できるように、曲の難度に見合ったピアノ伴奏を付けるように私は心掛けています。

 作曲家であれば、音楽や芸術そのものの在り方を時代に問いかけるような、芸術性の高い作品やオペラ、楽劇に取り組むことも必要でしょうし、映画やドラマの音楽のように、映像に附随する副次的存在でありながら大切な役割を担う音楽も書かなければなりません。
 けれども、その一方で、音楽を勉強する子供達のために教材としての作品を書くという側面にも、時代と共にある作曲家としての大切な存在意義があるのではないかと考えています。課題曲に選ばれた自分の作品を、フランスの生徒さんたちが、音楽の勉強のために一生懸命に練習してくれているなんて、作曲家として何と嬉しい事でしょうか。
 そういうわけで、これからも、このような小品を書き続けてゆきたいと思っている今日この頃です。


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