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陸上自衛隊 東部方面音楽隊
第44回定期演奏会

日時:2005年9月17日(土)14:00〜
場所:東京芸術劇場 大ホール
レポート:織茂 学(ピアニスト) 
URL:http://www.k3.dion.ne.jp/~m-orimo/
◎新作初演とマーチ好きには欠かせない貴重な演奏会
 9月17日(土)に、東京芸術劇場において開催された「陸上自衛隊 東部方面音楽隊 第44回定期演奏会」に行って参りました。今回のプログラムは邦人2人による委嘱作品に、ドイツ音楽の特集が組まれており、普段、なかなかふれることのできないドイツ・マーチも演奏されました。

 まずは演奏会の模様をお伝えする前に、陸上自衛隊東部方面音楽隊(以下、東部方面音楽隊)について改めてご紹介したいと思います。
 1960年に創隊され、東京都練馬区にある朝霞駐屯地に駐屯しています。関東甲信越および静岡県の1都10県におよぶ東部方面隊区内において、国家的行事・自衛隊の儀式・部内外からの要請による演奏を任務とし、年2回の定期演奏会をはじめ、室内楽演奏会等、年平均100回の演奏を行っておられます。天野正道氏の《おほなゐ〜1995.1.17阪神淡路大震災へのオマージュ〜》を委嘱初演したバンドとしてご承知だと思います。

 さて、演奏会は2部構成で、司会は同隊員でもあるクラリネット奏者の野口2等陸曹による作品解説等のお話を交えながら進んでいきました。ではさっそく、演奏会にふれてみたいと思います。

 第1部最初の曲は、ヴァンデルロースト作曲《マーキュリー》です。
 コンサートマーチとして親しまれているこの作品は、ヴァンデルロースト自身が指揮をしていた金管バンドの15周年記念のために書かれた作品を、自身の手によって吹奏楽に編曲されたものです。演奏会の最初を飾るに相応しい作品と演奏でした。

 2曲目は、F.メンデルスゾーン作曲《2本のクラリネットのための小協奏曲》です。
 この作品は1833年に、元々はクラリネットとバセットホルンとピアノのために作曲されています。3楽章形式で、各楽章の演奏時間は2〜3分と短くかわいらしい作品ですが、2本のクラリネットはメロディーを交互に掛け合いながら進んでいくため、合わせるのが難しいですが、ソロを吹かれた安井3等陸曹と片山3等陸曹の息がぴったりで、特に2楽章の冒頭のソロ・クラリネット2人のみで演奏する小さなカデンツは、短いながらも時には力強く、時にはやさしくという様に、メリハリがついた演奏でとても素晴らしいものでした。

 3曲目は、清水大輔作曲《アレックス教授の冒険物語》です。
 2005年同音楽隊の委嘱作品です。タイトルにもある「アレックス教授」というのは、作曲者が考えた想像上の人物で、彼が繰り広げる大冒険を表現しいるそうです。
 当日のプログラムノートによると「教授は考古学の研究を始めて20年が経ったある日、ある地図を見つけた…それは何千年も眠ったままの財宝、不老不死の泉が書き記されていた。教授は意を決し長く危険な冒険に出る。そこで待ち受けていたものとは…」というのが序章で、この後に始まる冒険を音楽にしているそうです。
 つまり、聴衆一人ひとりが冒険物語をそれぞれ思い描いて、教授の冒険の旅を演出して欲しい」という願いが込められています。

 民族的な作風やコラールなど色々な場面の音楽が盛り込まれており、親しみやすいメロディーとハーモニーを伴った華やかな作品です。金管楽器、特にトランペットやホルン、トロンボーンは音が高く技術的にかなり難しいですが、東部方面音楽隊の皆さんは、パワフルかつ大胆な演奏で、教授の壮大な冒険をイメージ・演出させる演奏でした。聴き手も色々な冒険の場面を思い浮かべながら聴くと、より作品を楽しめると思います。


 第1部最後の作品は、八木澤教司作曲《ラス・ボラス・グランデス》です。
 この作品も2005年同音楽隊の委嘱作品です。「ラス・ボラス・グランデス」とは1930年代の初めに中米コスタリカで発見された謎の石球のことで、300〜800年頃に作られたと考えられ、大きさはテニスボール程から2.6mにもなるまで100種類以上にわたり、一直線上に並んだり幾何学模様に配置されていたりと、何らかの意図はあったと考えられるが、明確な理由は先人達の研究によって不可能になってしまったのである。
 今回は最も神秘的な学説「石球は地球を表し他の惑星との位置関係を示すものではないか」というテーマで作曲されています。5度音程をもった不思議な感じから始まり、所々に出てくる木管のソロが作品に彩りを添えています。攻撃的な部分は宇宙規模を彷彿とさせ、大人のロマンをかきたてられる作品と演奏でした。


 休憩をはさんで第2部は「ドイツ音楽特集」と題して、ドイツ音楽の魅力を改めて感じてみましょうという企画でした。

 まず最初の曲は、R.ワーグナー作曲《歌劇「ローエングリン」より第3幕への前奏曲》です。
 この作品は1848年に作曲の《歌劇「ローエングリン」》(全3幕)の中で演奏される曲です。中世の叙情詩「白鳥の騎士ローエングリン」に基づき作曲され、エルザと結婚することになったローエングリンの喜びを表現しています。トロンボーンの力強いファンファーレを見事に演奏し、ワーグナーの壮大な音楽を見事に再現していました。

 2曲目は、G.フェルスト作曲《バーデン・ヴァイラー行進曲》です。
 この作品は1914年に第一次世界大戦中北仏バドンヴィレの激戦を記念して作曲されました。本来のタイトルは《バドンヴィレ行進曲》とつけられていましたが、その後「バーデン・ヴァイラー」として有名になったため、日本ではこの題名で知られているそうです。ドイツ近代的行進曲の中でも最高傑作に位置づけられています。流石は東部方面音楽隊という、規律正しいマーチの中のマーチという素晴らしい演奏でした。

 3曲目は、G.ピーフケ作曲《プロイセンの栄光》です。
 この作品は、1871年普仏戦争におけるプロイセンの勝利と、プロイセン国王ヴィルヘルム1世のドイツ帝国皇帝就任を祝したもので、現在でも連邦軍第1軍団の全部隊のフォーマル・マーチになっています。華々しいファンファーレと力強い演奏は、まさにプロイセンの恒久的な栄光を願い称える作曲者の願いを想像させるに相応しい演奏でした。

 4曲目は、G.ショルツ作曲《夕べの歌とドイツの帰営譜》です。
 帰営譜とは、17世紀以前に起源があり、本来は訓練を終えて駐屯地周辺の酒場に繰り出した兵士を兵舎に帰営させるための音楽で、ドイツ語で「Zapffenstreich」すなわち「Zapffen=樽」「streich=叩く」ということで、酒樽を叩いて帰営を促す…という所から来ているようで、それが次第に軍隊の儀式に変化していったそうです。
 作品は途中、トランペットとチャイムによるファンファーレがあるのですが、それは遠くの駐屯地より聴こえて来る楽器と鐘の音が、音の速度により遅れてこだましている様子に感じました。

 5曲目は、P.ヴォイチャッハ編曲《ドイツ行進歌メドレー》です。
 この曲を編曲したパウル・ヴォイチャッハは、日本でもレコードを通じて有名なカール・ヴォイチャッハの息子です。この作品はドイツの民謡や軍歌をメドレーにしたもので、全5曲から成っています。
 映画「バジル大戦」で有名になった《戦車の歌》に、間奏《予備役は暇がある》を挟み、《1人の娘が早起きして》《リーザ》《ローレ》《黒褐色のハシバミの実》と続きます。
様々な色彩を持つ作品をそれぞれ特徴を捉えて演奏されていました。また今回は男性隊員4名によるダンディーで素敵な歌声も披露されで会場を大いに沸かせていました。

 6曲目は、N.ショルツェ作曲《リリー・マルレーン》です。
 この作品は1938年の作品で、アメリカのルロイ・アンダーソンの編曲で有名になり、第二次世界大戦中は国境を越えて愛唱されていたそうです。日本では梓みちよさんや加藤登紀子さんがカヴァーされてヒットした作品です。
 故郷にいる恋人に遠い戦地で想いを寄せる兵士の心を歌った愛の歌で、しっとりとした甘いメロディーを持った作品です。今回は言葉ではなく音符による演奏でしたが、十分心にしみわたる演奏でした。

 最後の作品は、R.ワーグナー作曲《楽劇「ラインの黄金」より神々のワルハラへの入城》です。
 第2部の1曲目と同じワーグナーの作品で、《楽劇「ニーベルンクの指環」》の前代未聞の大規模な楽劇の序章にあたる部分です。全1幕4場からなり、ライン川底にある黄金を巡って天井の神々、地上の巨人、地下のニーベルンクの小人たちが争う物語で、そのクライマックスに使用されています。ワーグナーの中でもひときわ壮大な作品を取り上げる事は、精神的にも体力的にも、さらには演奏会のトリを飾るとなると、とても大変な決断だと思いますが、さすが普段から鍛えていらっしゃる東部方面音楽隊の皆さんは、演奏の心構えに余裕がある、別格の演奏をされていました。

 アンコールも2曲演奏されましたが、客席からのたくさんのアンコールの声に応じて、急きょもう1曲が演奏されるという、とても豪華な演奏会でした。

 得意とするマーチだけでなく、邦人作曲家の委嘱作品も意欲的に取り組み、また、個々の楽器それぞれが高い水準の技術に音楽性を持っており、バランスの取れた素晴らしいバンドだと思います。特にマーチの演奏は本当に素晴らしいと改めて思いました。
 今回のプログラムは、技術、音楽性だけでなく、特にドイツ音楽における精神をコントロールすることが要求されると思いますが、舞台では日頃の訓練の成果が余裕をもたせ、引き締まった素晴らしい演奏でした。

新作初演とマーチ好きには欠かせない東部方面音楽隊の演奏会はこれからも注目
です!

陸上自衛隊 東部方面音楽隊 HP
http://www.eaband.com/


【プログラム】

第1部/指揮:副隊長 1等陸尉 神山 直三

・マーキュリー:ヴァンデルロースト

・2本のクラリネットのための小協奏曲/F.メンデルスゾーン
  I.Presto II.Andante III.Allegro grazioso

 1st.B♭ Clarinet 3等陸曹 安井 陽子
  2nd.B♭ Clarinet 3等陸曹 片山 理恵

・アレックス教授の冒険物語(委嘱作品)/清水 大輔
  http://www.scn-net.ne.jp/~maestro/sd.html

・ラス・ボラス・グランデス(委嘱作品)/八木澤 教司
  http://www.horae.dti.ne.jp/~yagisawa/home/


第2部/指揮:隊長 3等陸佐 吉永 雅弘

・歌劇「ローエングリン」より第3幕への前奏曲/R.ワーグナー

・バーデン・ヴァイラー行進曲/G.フェルスト

・プロイセンの栄光/G.ピーフケ

・夕べの歌とドイツの帰営譜/G.ショルツ

・ドイツ行進歌メドレー/P.ヴォイチャッハ(Arr.)

・リリー・マルレーン/N.ショルツェ

・楽劇「ラインの黄金」より神々のワルハラへの入城/R.ワーグナー


アンコール
・もののふ(武士)の夢/Arr.吉永 雅弘(同音楽隊隊長 3等陸佐)
・軍艦行進曲
・陸軍分列行進曲




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