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2005年吹奏楽界
最大の話題作
宇宙の音楽
Music Of The Spheres
フィリップ・スパーク
(吹奏楽版/楽譜)
BPショップで発売中
 
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大阪市音楽団
第90回定期演奏会

フィリップ・スパーク作曲『宇宙の音楽』世界初演

日時:2005年6月3日(金)
会場:ザ・シンフォニーホール
Text:黒沢ひろみ(ユーフォニアム奏者)
スパーク氏と同じ時代に生まれたことを心から喜んでいる・・・
「スパーク氏と同じ時代に生まれたことを心から喜んでいる」・・・これは、当日この世界初演を共に聴いた、私のある友人の言葉である。

『宇宙の音楽』がもたらした感動の全ては、この一言に凝縮されている!

 それは、1つの演奏を“聴いた”というよりも、“目撃した”“その現場に居合わせることができた”“世紀の瞬間を共有した”…そんな表現のほうが遥かに相応しい、貴重な経験だった。
 さらに私は、作曲者本人の隣りでその世界初演を聴くという、信じ難い幸運に恵まれたのである。スパーク氏は、非常に聡明な才知に長けた人物で、私の知る限り、彼が何かを失念したところなど見たことがない。しかし、この日は違った。曲がフィニッシュした瞬間の後、彼が感動に打ち震え、興奮し、言葉を失っているのを、私は見た。

 そしてホールを揺らす、文字通り“万雷の”拍手と歓声・・・

 恐らく、この作品の何がしかを予め知っていて会場に足を運んだ人々は、1,700人に及ぶ観衆の中で、それほど多くはなかっただろうと思う。にもかかわらず、会場中がまるでこの作品こそを待っていたかのような、大きな大きな賛嘆の波に包まれた。その場に居合わせた誰もが、この作品の偉大さを知り、未来への価値を記憶に刻んだことだろう。

 もちろん、それを余すところなく表現し切った山下一史氏の指揮と大阪市音楽団の演奏は、まさに完璧で、情熱的という言葉すら色褪せてしまうほど熱く燃えたぎる魂に完全な技術があいまって、間違いなく歴史的と称賛される名演を残した。

 ここで、少し作品について述べておこう。
 曲は、宇宙の誕生から始まる。膨張し成長する宇宙の描写に続き、我々の生息する星=地球が思い合わされる。アステロイドと流星群の脅威が展開された後、ピタゴラスの理念による協和音が天空から響き渡るのを聴いて、曲は未知への問いを秘めたエンディングに向かう。さながら、18分30秒間の壮大なタイム・トラベルである。

 冒頭部分は「宇宙の誕生=ビッグバンの瞬間には、すべてのものが無であった」という説を表現していると解説にはあるが、そこで奏でられるホルンのソロは、私見が許されるならば私にはむしろ、誰も知り得ない、神さえも存在しない“ビッグバン前夜”で、『何か』が“その瞬間”の来るのも知らず、孤独の中でただ空しくうめいている(しかしその『何か』こそがビッグバンの引鉄を引くものなのだが…)、といった情景にさえ思われた。

 非常に高い音楽性と表現力が求められる部分に違いなく、市音のホルン奏者が見事にその大役を演じ切っていたことは、特筆に値すると言えよう。しかしこの曲は、最初から吹奏楽曲として生まれたのではない。
 原曲は、ブラスバンドのために書かれた作品で、デーヴィッド・キング率いるヨークシャー・ビルディング・ソサエティ・バンドが委嘱し、2004年5月、ヨーロピアン・ブラスバンド選手権で“コンテスト用の自由曲”として初演された。この時、同バンドは見事チャンピオンシップを獲得し、その凄まじくも目映い演奏の模様はDVDで観ることができる

 一躍、ヨーロッパを席巻したこの曲の吹奏楽版を、ではなぜ、大阪市音楽団が世界初演したのか・・・作曲者に訊ねると、実は、今年(2005年)オランダのケルクラーデで開かれる、4年に1度の「世界音楽コンクール(WMC)」へのノミネートが決まったドイツのあるウィンドバンドが、ヨークシャーの“戦果”を聞きつけてか、同曲をそのコンクールで演奏したいと、昨年の春頃、既に作曲者へ申し出ていたそうである。
 演奏プログラム上の兼ね合いでこの委嘱は結局実現されることはなかったが、しかし、吹奏楽版の構想がすでに出来ていたスパーク氏はこれを自らの意思で書き下ろし、「世界初演は大阪市音楽団に!」と考えていた、というのである。

 水面下での打診の後、彼は吹奏楽版のオーケストレーションに着手、2004年12月にシカゴのミッドウェスト・クリニックの会場で市音のスタッフへスコアと楽譜が手渡され、それが今回の見事な世界初演の実現に繋がったというわけである。
 BPでも告知されている通り、今やこの吹奏楽版も正式に出版発売され、くだんのドイツのバンドは、委嘱元にはならなかったものの結局、ケルクラーデのコンクールでこの曲を演奏できることになったという(ちなみに『宇宙の音楽』は同コンクールで、ブラスバンド2団体、ウィンドバンド2団体によってノミネートされているらしい)。

 大阪市音楽団は、まさに、“フィリップ・スパークに選ばれたバンド”というわけである。これは、大阪市民のみならず、我々日本人が皆、誇りに思って良いことだと思う。自身の将来を左右するかもしれないほどの遠大な新曲、その世界初演に、彼は迷わず“市音”を選んだのである! そしてその信頼に応えた市音が、まさしく歴史に残る熱演を作曲者本人の目の前で繰り広げた。当日その会場にいた人々は、そういう記念碑的な現場に居合わせたのである。

 まずは、深く鑑賞して欲しい。以前からずっとスパーク・ワールドに浸っている人々も、これからスパーク・ファンになろうという人も、まずはこの新しい偉大な作品を、深く深く鑑賞して欲しい。幸いスコアも手に入るようである。例えばオーケストラの名曲・難曲を、クラシックファン達がミニチュア・スコアを買い込んで、お気に入りの名演を繰り返し繰り返し聴きながらじっくり鑑賞し、大きな歓びを得る・・・この『宇宙の音楽』は、そういう“至福のひととき”も楽しむことができる超大作である。

 もちろん、市音に続けとばかりに日本でこの大作に挑むバンドが出てくることは、スパーク氏も望むところだろうが、その暁には是非とも、心技体いずれも“最高点に到達する演奏”を目指して欲しいものだと思う。

 この作品のタイトルを導いたピタゴラスの理論の中には、こんな言葉があるという・・・「薬は肉体を苦痛から解放し、音楽は魂を汚れから解放する」・・・ 音楽とは、ピタゴラスの観念から言うと“完成美を極めたもの”で、すなわちそれは“宇宙”と同義だった、という。
 今この時代に、フィリップ・スパークという作曲家が『宇宙の音楽』という作品を世に出したことは、ブラスバンドや吹奏楽の限られた枠組みの中だけで受け止めるべきではないのかもしれない。広く音楽界に、この作品が今後どう認知されていくか、その行末を楽しみにしているのは、決して私だけではないはずである。

Text:黒沢ひろみ(ユーフォニアム奏者)


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