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Winds for Niigata
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■M8 STYLE, vol.1/東京佼成ウィンドオーケストラ
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Winds for Niigata/2005.6.5.

日時:2005年6月5日(土)13:00〜16:00
会場:新潟・魚沼市小出郷文化会館
レポート:富樫鉄火(音楽ライター)

そこにいた全員の心と音楽が1つになった時
・・・奇跡が生まれた!

 6月5日(日)、新潟県魚沼市にある「小出郷文化会館」を中心に、「Winds for Niigata クリニック&コンサート」なる催しが開催された。

 実は、私自身、この企画を少々お手伝いさせていただいたのだが、たいへん素晴らしいイベントだったので、内容をご紹介させていただく。

●被災地の吹奏楽部はどうなっているのか・・・

 今回の企画の発端は、楽譜出版社「ミュージックエイト」(以下M8と略す)の、助安博之社長の発案だった。

 かねてより助安社長は、昨年秋の新潟中越地震以来、現地の中学・高校の吹奏楽部がどうなっているか、たいへん気にかかっていたという。できれば、「吹奏楽関係者」の立場から、何か、助けてあげることはできないかと、おぼろげながら考えていた。

 周知のとおり、M8社は、Jポップを中心に、中高生向けの吹奏楽譜を多く出版しており、特に近年は、少子化の影響で、十分メンバーが揃わない、少人数吹奏楽部のための楽譜に本腰を入れだしたところであった。それだけに、被災地の、特に少人数で頑張っている中学・高校吹奏楽部のその後が気にかかっていたらしいのだ。

 その結果、「チャリティCDを制作し、売上げを寄付する」ことと、「臨時の少人数プロバンドを編成し、現地でクリニックとコンサートを開催し、直接、中高生と触れ合うことで、少しでも励ましになれば」との企画を決意する。

 この情熱的なアイディアに、私や、バンドパワーの小太郎氏、また、トロンボーン奏者でシエナ・ウインド・オーケストラのメンバーである郡恭一郎氏などが共感し、実現に向けて動き出すことになった。

 だが、言うまでもなく、M8社は「出版社」である。CD制作や、イベント主宰を日常的にやっている会社ではない。当初は、正直なところ、そんなことが実現できるのか、半信半疑であった。

 しかし、助安社長の情熱は、尋常ではなかった。いくら関係者がボランティア協力するといっても、制作したCDは、売上げの一部を新潟赤十字に寄付し、しかも、イベントに参加してくれた中高生にプレゼントするということで、実態は、赤字・・・M8社の持ち出しになるはずだ。だが、「それでもいい。営利でやるのではないのだから」と、貫き通した。

 当初、私たちは「チャリティCDをつくるのはまだしも、被災地でクリニックやコンサートを開催するとなれば、現地関係者の協力を仰がなければならず、震災から半年しか経っていない現状では、かえって迷惑なのではないか」との思いが拭えなかった。

 すると助安社長は、休日を利用して、何度か、単身、被災地に乗り込んで、現地の関係者の意見を聞いて回り始めた。その結果、「決して迷惑ではない。かえって、この種の企画を、被災地は熱望している。現地関係者の方々も、全面協力してくれると言って下さっている」との報告が来た。

 かくして、本格的な準備が始まった。「チャリティCD」をつくり、そのメンバーがそのまま、被災地へ行き、クリニックを開催し、かつ、CDの曲目をコンサートで演奏し、最後は、参加者と一緒に合同演奏を行う・・・企画全体の概要が決まった。

●CD制作開始

 CDの内容は、M8社が刊行している「少人数吹奏楽」シリーズから選曲することになった。スコアをチェックすると「16人」必要だ。となれば、まず、プレイヤーを16人集めなければならない。
 これに関しては、先述、郡恭一郎氏が、所属するシエナ・ウインド・オーケストラのメンバーを中心に、まさしく綺羅星のようなプレイヤーに声をかけ、編成を組んでくれた。誰もが、快く参加に応じて下さった。

 CD制作については、バンドパワーの小太郎氏が、ベテラン・エンジニア迫泓文氏を中心に、万全の体制を整えてくれた。

 まず、4月後半、東京・大久保の「ダク」スタジオで、2日間をかけて録音が行われた。なにぶん、チャリティ目的のCD制作なので、予算も限られている。贅沢な環境を求めることはできない。プレイヤーもエンジニアも、そのほかの関係者も、全員が同一ワンフロアの中で、すべての作業を行わなければならなかった。これは、プレイヤーや録音スタッフにとっては、かなり「勘弁してほしい」状況だったはずだ。それだけに、誰もがやりにくかったと思うが、耐えに耐えて、皆さん、最後まで頑張ってくれた。

 演奏は、さすがにシエナ中心のメンバーだけあって、素晴らしいものだった。たった「16人」で、こんなに美しく豊かな響きが出るものかと、心底、感動させられた。M8の楽譜は、プロバンドによるデモCDがめったにない(先日、佼成出版社から出た『M8スタイル』が初めてのCDだが、これは「少人数吹奏楽」シリーズを演奏したものではない)。しかし、キチンと演奏されると、こんなにいい響きが出るのだ。その視線は、決して「上級バンド」に向かってはいない。文字通り、少人数に悩みながら、チョイスできる楽譜や楽器に制約がある中で、何とか頑張っている中学・高校吹奏楽部のための楽譜だ。

 おそらく、日本全国の吹奏楽部には「スミスだ、スパークだ」と、高度な音楽を日常的にやっているバンドよりは、少人数で頑張っているバンドの方が多いはずなのだ。私たちは、そのことを、忘れすぎてはいないだろうか。トランペットの音域が、五線をはみ出したはるか上で、あたりまえのように乱舞している曲。ブレスの箇所が皆無で、延々と木管に十六分音符が続く曲。マリンバからテューブラーベルズ、大型ドラ、果てはハープがなければ形にならない曲・・・これらが、決して悪いとは言わないが、私たちは、そういった吹奏楽曲にばかり注目しすぎてはいないだろうか。10数人しかいないバンドは、吹奏楽部ではないのだろうか。トランペットは、全員が超高音を出せなければダメなのだろうか。高価なマリンバを購入できないバンドは、どうすればいいのだろうか。つまり・・・コンクールだけが、吹奏楽世界なのか。

 今回のCDは、チャリティであると同時に、そんな思いもこめられている。だから、最後の1曲「涙(なだ)そうそう」は、「5人」で演奏してもらった(クラリネット、アルト・サックス、トランペット、トロンボーン、ユーフォニアムが各1人ずつ)。たった5人だって、こんなに美しい音楽がつくれる。5人だって、立派な吹奏楽部だ。あきらめないでほしい。特に、新潟の吹奏楽部は、被災後、部活動どころじゃないかもしれない。ただでさえ、少人数で苦しんでいたところへ、地震で、さらに困っているかもしれない。しかし、あきらめないでほしい。頑張ってほしい。
 このCDが、そんな一助になれば・・・関係者一同は、そんな思いでいっぱいだった。

●540名の参加者!

 電光石火のスピードで、編集・プレスを終え、5月末、ようやくCDが完成した。エンジニアやデザイナー、イラストレーターも、主旨に賛同してくれて、GWを返上して作業に没入してくれた。

 そして、6月5日(日)、念願の「クリニック&コンサート」となった。当日、CDを参加者にプレゼントしたいという助安社長の念願も、何とか間に合って実現した。

 これに関しては、魚沼市「小出郷文化会館」の方々、および、同地で数々の文化事業を行っている「魚沼文化自由大楽」実行委員会の方々のご協力をいただいた。また、現地で吹奏楽指導をしておられる「小出郷ジュニア・ブラス・オーケストラ」の音楽監督・三浦義弘先生(十日町高校勤務)を中心に、多くの中学・高校吹奏楽部の顧問指導者の先生方のご協力も得られた。

 その結果、なんと、被災地域22校から540名もの吹奏楽部部員が集まってくれることになったのだ。聞けば、どんどん参加者が増えてきて、物理的に会場の収容限界を超えそうになったので、ある時点で募集を締め切ったという。

 もちろん、現地の関係各位のご努力で、こんなにたくさんの参加者が集まったのだと思う。しかし、この参加人数を知らされた時、「やはり、被災地のみんなは、こういう機会を待っていてくれたのか・・・」とのうれしさもあった。

 当日は、小出郷文化会館を中心に、近隣の学校もお借りして、まず、楽器別のクリニックが開催された。講師は、CDに演奏参加してくれていた、シエナ中心の「Winds for Niigata」のプレイヤーたちである。

 私たちがうれしかったのは、このクリニックを、16人のプレイヤーたちが、ほんとうに熱心にやって下さったことだ。彼らは、自ら身体を乗り出して、生徒たちの中に入り込んで、生徒の目線で一緒になって指導してくれていた。あるパートでは、合同演奏の曲練習を中心に、また、あるパートでは、楽器の扱い方からメンテナンスなどの基礎指導まで・・・。生徒たちも、一所懸命、講師の呼びかけに「はい!」と元気イッパイ応えている。

 おそらく、現地の中高生たちは、東京などの大都会にいる中高生に比べれば、プロのナマ演奏を耳にする機会は少ないと思われる。しかし、当日は、一流プレイヤーが、目の前で、実際に演奏しながら、いろいろな指導をしてくれたわけで、きっと、いい経験になったはずだ。

●感動の合同演奏

 かくして、午後3時から、小出郷文化会館の大ホールで、「コンサート&合同演奏会」となった。

 この大ホールは、1132席、残響1.7秒で、たいへんいい響きのするコンサート・ホールである。客席は、当日の参加者540名が、楽器・譜面台を持って着席しているので、外見上は、完全に満席に見える(つまり、大型楽器や譜面台を客席に持ちこまなければならないので、席数の約半分で参加募集を締め切ったのだった)。

 不肖・私の司会、M8社・助安社長のあいさつで、コンサートは始まった。

 舞台上にいるのは、「たった16名」の「Winds for Niigata」メンバーである。指揮者はいない。ドラムスのカウント、もしくは、アルト・サックス奏者の合図で、演奏が始まる。

 曲目は、まず16名の演奏で「風になりたい」「さくらんぼ」「瞳をとじて」「SING,SING,SING」など。

 私は、舞台袖で、演奏を聴きながら、また、客席を眺めながら、不思議な感動に襲われていた。客席の540名の中高生たちは、身じろぎもせず、じっと聴き入っている。仕事柄、中高生たちがプロの演奏を聴く場面は、いままで何度も見てきたが、何かが違う。

 さっきまでクリニックで接していた講師プレイヤーなので、親しみがあったのだろうか。16名という少人数で、こんなに大きな、きれいな音が出るのに、驚いたのだろうか。楽しい音楽ばかりで、うっとりしてしまったのだろうか。被災地へ応援に来てくれたことに感動してくれているのだろうか。このあと、このプレイヤーたちと合同演奏することに、期待が膨らんだのだろうか。

 おそらく、その全部だと思う。それらすべてが、舞台上の16人から、客席の540名に、見事に伝わり、共感が交錯したのだと思う。だから、生徒たちも真剣なまなざしで聴き入ったのだろう。

 だが、ほんとうの感動は、そのあと、やってきた。

 先述の三浦先生が舞台に登場し、3曲の合同演奏の指揮をして下さる。参加者は、全員が立ち上がり、譜面台の上に楽譜を広げる。

 1曲目は「パッヘルベルのカノン」。
 演奏が始まるや、ホール内に、異様な空気が満ち始めた。いったい、音楽とは、どこまで魔物なのだろうか。540名の中高生と、16名のトップ・プロが一緒になって演奏している。ピッチが合うわけがない。残響の多いホールゆえ、テンポだって、狂いがちだ。中には、この4月から楽器を始めたばかりの中学1年生だって、たくさんいる。時々、楽譜にない音も聴こえてくる。

 なのに、どうして、こんなに素晴らしい音楽が生まれるのだろう。こんな演奏、私は、聴いたことなかった。ウマイとかヘタとか、そんなものを通り越した何かが、いま、生まれているのだ。彼らを結び付けているのは、たった1枚の楽譜である。単なる記号が羅列している紙切れだ。それを、さっき集まったばかりの中高生とプロが、楽譜の指示に従って演奏しているだけなのだ。なのに、なんで、こんなにキレイな音楽が生まれるのだろう。

 2曲目は「マツケン・サンバII」。パーカッションの参加者は、多くが「小物」を扱う。一転して、賑やかでウキウキする演奏。三浦先生の呼びかけで、ラストは、全員で「オ〜レ!」の掛け声が。

 ラストは、「Bilieve」。三浦先生が「地震で苦しい目にあったけれど、これからも、明日を信じて頑張ろう」という主旨のコメントを発してくださり、この曲の合同演奏は、筆舌に尽くせぬ、恐ろしいまでの感動が会場を包むことになった。

 客席後方にいた参加者の保護者らしき方々は、ハンカチで涙を拭っていた。演奏している中高生の目にも涙が光っていた。540名の中高生と、16名のプロが、いま、奇跡を生み出しているとしか思えなかった。

 有名な曲だから、参加者たちは、歌詞を思い浮かべながら演奏したと思う。「今 未来の扉を開けるとき 悲しみや苦しみが いつの日か喜びに変わるだろう」・・・地震は「不条理」だ。何で、あんな目にあわなければならないのか、誰も説明できない。条理がない。肉親や親戚・知人を失ったり、我々には想像もつかないようなつらい目にあった生徒たちもいたはずだ。

 そういえば・・・少人数の部活動だって不条理だ。誰だって、大人数で、たくさんの楽器で演奏したい。しかし、現実は、そうではない。これもまた、誰も説明できない。「少子化」なんて言われたって、そんなこと、よく分らない。

 要するに、この世の中は「不条理」で出来上がっているのだ。しかし、音楽は、その「不条理」を乗り越えるパワーを持っている。現に、この合同演奏の瞬間は、不条理なんて吹っ飛んでいた。奇跡が生まれたのだ。それが、カネになるわけではない。明日からの暮らしがラクになるわけでもない。地震が来なくなるわけでもないし、少人数吹奏楽部が、明日から大人数になるわけでもない。だが、明らかに、あの瞬間は奇跡だったのだ。

 現に、帰りの新幹線の中で、プレイヤーのメンバーたちも口々に言っていた・・・「最後は、こっちも感動してしまった」「不思議だ。クリニックでは、音が外れていたり、初心者が多くてどうなることかと思っていたのに、何で、合同演奏になったら、あんないい音楽が生まれるのか」「いやあ・・・プロのコンサートでは、こういう感動は味わえないですよ」「吹奏楽はいい! この種の感動は、クラシック音楽では味わえない」・・・Winds for Niigataに参加してくれたプレイヤーたち自身が、感動し、満足してくれたことがうれしかった。彼らが、こういう気持ちになってくれたからこそ、あんなに素晴らしい合同演奏になったのだとも思う。

 M8社・助安社長の執念ともいうべきアイディアから始まった今回の企画だが、できれば、機会を見つけて、続けて行きたいものだ。臨時編成のバンドであっても、これだけ賛同して、熱心にやってくれるプレイヤーがいる以上、「臨時」ではなく、「期間限定結成バンド」にでもなってくれたら、ほんとうにうれしい。

 最後に、Winds for Niigataの素晴らしき16名のプレイヤーの皆さん、そして、新潟・魚沼市の関係各位の皆様に、心から感謝を申し上げます。

※コントラバスやファゴットなどのパートは、現地の講師の先生方がボランティアで指導して下さった。16人のパートにないパートの生徒にも是非参加してもらいたかったからである。この場を借りて、ボランティアの講師の先生方にも感謝を述べたい。

Winds for Niigata 〜少人数吹奏楽曲集

・演奏団体:Winds for Niigata
・指揮者:山下国俊(Kunitoshi Yamashita)
・発売元:(株)ミュージック・エイト

1. ミッション・インポッシブル【3:00】
2. ひょっこりひょうたん島【2:45】
3. ルパン三世のテーマ【3:10】
4. Believe【4:00】
5. アリラン【2:20】
6. シング・シング・シング【3:50】
7. よろこびの歌 第九シンフォニー「合唱【4:30】
8. さとうきび畑【3:20】
9. 風になりたい【2:45】
10. 日本愛唱歌アルバム 【6:00】
11. 学園天国【3:00】
12. パッヘルベルのカノン【4:10】
13. さくらんぼ【3:30】
14. 瞳をとじて【3:00】
15. マツケンサンバII【3:30】

〈ボーナス・トラック/5人ヴァージョン〉
16. 涙(なだ)そうそう【3:30】

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■Winds for Niigata 〜少人数吹奏楽曲集

 
Winds for Niigata
 メンバーズ
金野紗綾香 (fl)
近藤 薫(Cla)
飯島 泉(Cla)
栄村正吾(A.Sax)
大津立史(T.sax)
林 育宏(Hrn)
三谷政代(Hrn)
本間千也(Trp)
池田英三子(Trp)
郡 恭一郎(Trb)
塚本 修也(Trb)
中村睦郎(Euph)
近藤龍治(Tuba)
堀 正明(Perc)
新田初実(Perc)
土屋吉弘(Dr)
■参加団体
小千谷中学校
川口中学校
十日町中学校
五十沢中学校
大巻中学校
十日町総合高校
塚山中学校
東北中学校
小千谷高校
小出高校
燕高校
柏崎高校
吉田高校
広神中学校
小出中学校
六日町高校
湯沢中学校
北辰中学校
堀之内中学校
塩沢中学校
東小千谷中学校
六日町中学校
 
 
 
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