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ファミリー・ツリー/Family Tree・・・レジェンド(マルセル・ケンツビッチ)のピアノ伴奏版収録
21世紀の吹奏楽「響宴VII」〜新作邦人作品集
21世紀の吹奏楽「響宴VI」〜新作邦人作品集
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21世紀の吹奏楽 第8回「響宴」

日時:2005年3月20日(日)14:00〜
会場:東京芸術劇場大ホール
レポート:富樫鉄火(音楽ライター)
 3月20日(日)、東京・池袋の東京芸術劇場大ホールで、「21世紀の吹奏楽 第8回“響宴”」が開催された。

 これは、吹奏楽曲の邦人作品の拡充・開発を目的に、未発表・未出版・初演の作品を演奏する、いわば「新曲発表会」のようなコンサートである(「未出版」であれば、すでに初演された曲も含まれる)。毎回、数バンドが、各3〜4曲ずつ、新曲を披露する。

 早いもので、このイベントも、8年目を迎えた。その間、今回も含めると131曲の作品を紹介したことになるという。その中には、吹奏楽界のレパートリーとして定着し、さかんに演奏されている曲もあれば、そうでもない曲もあるが、総じて、このイベントが、吹奏楽界にある種の役割りを果たしてきたことは、誰も否定できないであろう。

 今年は、5つのバンドによって18曲が演奏・紹介された。

 そのすべてを論じることは、スペースの都合上とても不可能であり、そもそも、筆者のような道楽者の手に負えることでもないので、特に印象に残った曲についてのみ、ここで述べておきたい(当日の演奏曲目・演奏団体は末尾に)。言うまでもないが、このイベントは、毎年、ブレーンからライブCDが発売されるので、ぜひ、そのCDでも、再確認していただきたい。

 建部知弘作曲≪ウインド・アンサンブルのための五章「ケンタウル祭の夜に…」〜宮澤賢治「銀河鉄道の夜」によせて〜≫は、文字通り、『銀河鉄道の夜』にインスパイアされた曲だが、全体的に、確かに、私などが子供の頃に読んだ賢治の世界が素朴に音楽化されていて、たいへん楽しかった。最終楽章に、宮沢賢治の自作曲≪星めぐりの歌≫が引用されていて、もし、この曲を知っている賢治ファンだったら、大感動してしまうであろう。

 飯島俊成作曲≪枯木のある風景≫と北爪道夫作曲≪Secret Song≫は、ともに、従来の吹奏楽の響きを否定するような、新しい音楽を思わせる、独特な曲であった。

 新曲のたびに話題になる田村文生作品は、今回は≪残酷メアリー≫。プログラムには、曲名の由来が何も書かれていなかったが、おそらく、イングランドで、エリザベス一世の前に、事実上、女王の地位に就いていた「メアリー」のことと思われる(若い聴衆が多いコンサートなのに、解説が少々不親切だな、と思った)。彼女は、プロテスタントに対する弾圧を非情なまでに行い、「Bloody Mary」(血まみれメアリー)と呼ばれた。現在、カクテルになっている「ブラッディ・マリー」の名前は、ここから来ている(トマト・ジュースを使うので真っ赤なのだ)。過去の田村作品同様、たいへん強烈な響きと緊迫感を生む音楽である。

 ・・・と、様々な曲が演奏された中で、私個人が最も印象に残ったのは、津堅直弘作曲≪LEGEND Euphonium and Wind Ensemble≫であった。

 作曲者は、NHK交響楽団の首席トランペット奏者だが、近年、作曲にも乗り出している(筆名:マルセル・ケンツビッチ)。この曲は、ソロ・ユーフォニアムとバンドのための曲だが、もともと、ピアノ伴奏版やオーケストラ版などがあり、それを吹奏楽版に改訂したもののようだ。しかも、外囿祥一郎(航空自衛隊中央音楽隊のユーフォニアム奏者)のために書かれたという。

 それだけに、ユーフォニアムの超絶技巧ぶりは言語に絶する。外囿祥一郎が、ウルトラ級の奏者であることは、今さら私ごときが説明するまでもないが、まるで人間の息吹のような音である。それを見事に引き出した曲を書いた作曲者も、すごいものだ。

 だが、私が感動したのは、ユーフォニアムの音色や技巧もさることながら、この曲の構成というか中身そのものであった。

 前半は、沖縄のメロディをもとに、ユーフォが奏でるたいへん美しい「変奏曲」である。変奏が重なるたびに、ユーフォの超絶技巧が、次々と披瀝される。

 ところが、後半は一転して、暗い激しい曲調になる。「君が代」と、アメリカ国歌「星条旗」が、それぞれ、断片で聴こえてくる。つまり、この後半部分は、「沖縄戦」をモチーフにしているようなのだ。言うまでもなく、太平洋戦争末期、沖縄は、日本で唯一、米軍に上陸され、激戦地になった場所だ。戦闘を描写したと思しき音楽が激しく盛り上がり、「星条旗」が高らかに(しかし、若干の虚しさもはらみながら)頂点に達した瞬間、音楽は、前半の旋律に戻り、すべては洗い流される。

 実は、私的な話で恐縮なのだが、私は、15年程前に、取材で、沖縄戦の戦跡地を歩き回ったことがある。現地ジャーナリストの案内で、ジープに乗せてもらい、観光地から遠く離れた森の中や、海岸線を走り回った。その際の印象をここで改めて述べることはしないが、言語に絶する光景をいくつか見た。あの光景が、曲を聴いていると次々と浮かんできた。曲のラストで、すべての憎しみや悲しみを超え、冒頭の美しいメロディに戻った瞬間は、涙が止まらなかった。戦争という不条理を乗り越えられるのは、タイトルにあるように「伝説」だけなのかと思うと、何ともたまらなかった。

 津堅直弘は、沖縄出身である。彼がどのような思いで、この曲を書いたのか、安易な想像は避けたいが、少なくともこのような曲が吹奏楽界に与えられたことは、特筆されるべきだと思った。今後、ライヴCDが発売されたら、ぜひ、多くの方々に聴いていただきたい。

 また、これだけ構成がしっかりし、かつ、訴えるものがある音楽なのだから、今後、「ユーフォニアム・ソロを基調としない」版、つまり、通常の「ウインドバンド版」もつくられてしかるべきだと思った。だって、このままでは、どれだけのバンドがこの曲を演奏できるというのか。外囿祥一郎クラスのユーフォ奏者がいてこそ演奏可能なスコアでは、すぐに埋もれてしまうのではないか。前半は、それこそ、チャンスの≪朝鮮民謡の主題による変奏曲≫を思わせる構成だし、後半はドラマティックな展開だ。ユーフォ・ソロがなくても曲の真意が伝わるようなスコアに改訂することも可能だと思うのだが。現代の中高生たちに沖縄戦の事実を知ってもらう、いい機会でもあろう。

 ところで、この「響宴」の開催目的のひとつに、「作曲者・演奏者・出版界(メディア)の相互協力について考える」という一項がある。

 ここでいう「出版界(メディア)」とは、主として、楽譜出版社であり、レーベル(レコード会社)であり、あるいは、ジャーナリズムも含まれるかもしれない。

 その「ジャーナリズム」、別の言い方をすれば「音楽批評」と呼んでもいいのだが、それらが、吹奏楽の分野においては、まだまだ遅れているような気がする。これだけ吹奏楽が盛んな国なのに、吹奏楽界の現状や問題点などを理解した上で、きちんと、音楽的・現実的な批評をしている人は、そういるとも思えない。
 例えば、終了後、多くの人たちに感想を寄稿してもらい、何かの形で公開するようような、一種の自己批評的な機会も、そろそろあっていいのではないだろうか。

 また、言うまでもなく、いまの時代、音楽は(特に吹奏楽は)、楽譜が出版され、多くのバンドが購入・レンタルして演奏し、あるいはレコーディングされることが求められる。当日も、ロビーには、多くの楽譜出版社やレーベルが、フルスコアの見本やCDを展示・即売していた。筆者も、いくつかのスコアを興味を持って見たが、横では、学生らしき若者たちが「ええ〜? この曲、オーボエ2本必要なのかあ」とか、「打楽器の数が足りないなあ」「うわあ、こりゃ(難しすぎて)うちじゃ無理だ」などと、あれこれ、スコアを見ながら確認している姿が見られた。

 スコアは、一般の書籍のように立ち読みして中身を確認する機会が、なかなかない。普通は、まずCDやコンサートで「音」を聴き、意欲が湧けば、スコアを確認し、編成上・テクニック上、自分たちでも演奏が可能かどうかをチェックするであろう。そのスコア・チェックの機会を得ることが、たいへん困難なのだ。楽譜店などに行っても、そうそう店頭在庫があるものでもない。

 最近では、レンタルをしている出版社によっては、フルスコアの「事前閲覧」のシステムを設けている社もある(低額で、短期間、フルスコアのみを貸し出す)。あるいは、ウェブ上で、フルスコアの冒頭のみを公開している社もある。

 そういった工夫をもっと行なって、楽譜そのものを、身近な存在にすることも重要ではないかと思う。この「響宴」が、そのきっかけになることを願ってやまない。


当日の演奏団体と演奏曲目

●中央大学学友会文化連盟音楽研究会吹奏楽部(指揮:小塚 類)
行進曲「風の音に乗って」(渡部哲哉)
Thread  for wind orchestra(寺井尚行)
ウインド・アンサンブルのための五章「ケンタウル祭の夜に…」〜宮澤賢治「銀河鉄道の夜」によせて〜(建部知弘)

●川越奏和奏友会吹奏楽団(指揮:佐藤正人)
SALTY MUSIC(三浦秀秋)
音楽祭間奏曲(小長谷宗一)
枯木のある風景(飯島俊成 )

●埼玉栄高等学校吹奏楽部(指揮:大滝 実)
さくらマーチ(杉本幸一)
その胸に抱け青雲の志(内藤淳一)
未来への飛行(本澤なおゆき)
花の歌(福島弘和)
アプローズ!(坂井貴祐)

●神奈川大学吹奏楽部(指揮:小澤俊朗)
MARCHE CAPRICE(阿部勇一)
Secret Song(北爪道夫)
残酷メアリー(田村文生)

●航空自衛隊中央音楽隊(指揮:松井徹生)
行進曲「風のハーモニー」(松尾善雄)
LEGEND Euphonium and Wind Ensemble(津堅直弘)
 (ユーフォニアム独奏:外囿祥一郎)
ペル・ソナーレ(八木澤教司)
Naval Bleu(真島俊夫)

 

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