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ガレリア・ウインドオーケストラ
第2回定期演奏会
◎見事なコンセプトに貫かれたコンサート!
 低気圧の影響で荒天となった1月16日(日)、東京・目黒の「めぐろパーシモン・ホール」で、ガレリア・ウインドオーケストラの第2回定期演奏会が開催された。

 何の予備知識もなく、気軽に行ったコンサートだったが、その企画性のユニークさなど、驚くべきものがあった。ぜひ、多くの方々に、この吹奏楽団の存在を知っていただきたく、レポートをお届けする。

 ガレリアWOとは、主に、東京音楽大学の活動を母体とし、その発展形として結成された、プロの吹奏楽団だという。音楽監督は、やはり東京音大出身の若き指揮者・小久保大輔氏。そして、これがガレリアWOのユニークな点なのだが、「コンポーザー・イン・レジデンス」として、作曲家の中橋愛生氏が参加している。このことが、同バンドを、ひとあじ違った存在にさせているようなのだが、これに関しては後述する。

 結成は2002年11月だから、まだ若いバンドだ。今回が2回目の定演である。

 事前の告知では、演奏曲目の一部に、「2005年コンクール課題曲」が発表されていた。おそらく、2005年の課題曲の、最も早い、プロによるナマの模範演奏の機会であろう。それだけに、私自身、「コンクール課題曲をプログラムに入れることで、若い観客を誘致しているのだろう」くらいの認識で出かけたのが、正直なところである。しかし、それほど単純でなかったことを思い知らされた(このようなコンサートが時折あるから、この仕事、やめられないのだ!)。

 当日、会場に着き、パンフにあるプログラムを見て、「おや?」と思った。第一部は、全9曲、すべて「マーチ」である。確かに、「2005年コンクール課題曲」は、5曲すべてもマーチだ。ところが、それら課題曲が、ひとかたまりで演奏されるのではなく、全9曲の中に、バラバラに配置されているのである。

 プログラム順を具体的に書くと、こうだ(★印が課題曲)。

≪コバルトの空≫(レイモンド服部)

★マーチ≪春風≫(南俊明)

★≪サンライズマーチ≫(佐藤俊介)

≪祝典行進曲≫(團伊玖麿)

≪秋空に≫(上岡洋一)

≪セレモニアルマーチ≫(坂井貴祐)

★≪パクス・ロマーナ≫(松雄善雄)

★≪ストリート・パフォーマーズ・マーチ≫(高橋宏樹)

★≪リベラメンテ 吹奏楽による≫(井塚健博)


 お分かりになるだろうか、この曲順の「意味」が?

 私も、最初、わけがわからなかった。しかし、プログラム解説を読んで、「なるほど」と、合点し、そして感動した。

 つまり、「マーチ」とは、本来、「行進するための実用音楽」である。しかし、中には、そうではない、「観賞用」、あるいは、「表現に重きを置いたマーチ」もある。

 実は、今回の曲順は、「実用性重視マーチ」から、次第に「表現性重視=観賞用マーチ」へと移り変わる、その変化を、9曲で描いたのである。要するに「行進に使えるマーチ」から始まって、次第に「行進できない、観賞用マーチ」へと変化してゆく流れを、実証していたのだ。しかも、その中に、見事に「2005年コンクール課題曲」5曲を配しである。

 う〜ん、まさしく、第1曲≪コバルトの空≫は、TBSのスポーツニュースのテーマ曲だ(私も中学校時代に演奏した。体育大会の入場行進で演奏したことがある)。
 そして、聴いていくうちに、曲は、次第に「行進」できない傾向になってくる。最後の≪リベラメンテ〜≫は、行進どころではない、無調の、前衛一歩手前の音楽だ(課題曲としても=大学・職場・一般向け)。しかし、まぎれもなく、すべてが「マーチ」なのだ。
 まさか、その年のコンクール課題曲を全部盛り込みながら、それでいて、まったく別のコンセプトで統一されたコンサートを構成できるなんて、誰が予想しただろう。

 私は、往年の、黛敏郎が企画・司会をしていた頃のTV番組『題名のない音楽会』を思い出していた。氷雨と強風の中、こんなコンサートに出会うとは、夢にも思わなかった。ほんとうに、行ってよかった。素人のバカ頭に、キーンと、刺激を与えてくれたような気分だった。
 この日、会場に来ていた聴衆の中で、どれだけの人が、このプログラム構成の素晴らしさに気づいただろうか?

 さて・・・どうも、このような企画コンセプトを実現させているのが、先述、同バンドの「コンポーザー・イン・レジデンス」の、中橋愛生氏らしいのだ。現に、パンフ解説も、同氏である。

 実は、まったく偶然だが、私が、中橋氏のことをBPで紹介するのは、今回で2回目である。昨年末に佼成出版社からリリースされたCD『フェスタ』を紹介した際、そのインナー解説を担当された中橋氏のあまりの詳しさ、素晴らしさを指摘した。あの、中橋氏である。

 同氏は、やはり東京音楽大学を出て、作曲家・編曲家・研究家として活躍されているが、このガレリアWOは、この中橋氏を、一種の「顧問」に迎え、曲目構成やプログラム解説執筆を依頼しているようだ。まず、この点が、通常のバンドとは、違っている。コンセプト次第で、吹奏楽コンサートが、いかに面白く有意義なものになるかを実証してくれた。

 そのユニークさは、休憩後の第2部でも発揮された。

 第2部のテーマは「変奏曲」である。曲目は、≪朝鮮民謡の主題による変奏曲≫(チャンス)、≪パガニーニの主題による幻想変奏曲≫(バーンズ)、≪主題と変奏≫(シェーンベルク)の3曲。特にあとの2曲は、ナマ演奏としてはひさびさに聴く名曲である。

 この3曲の「変奏曲」が選曲された理由は、中橋氏の解説によれば「どれもアメリカ生まれ」という共通性がありながら、それぞれ「民族的伝統音楽」「西洋音楽の古典」「自作の主題」と、異なったコンセプトを持っている・・・からであった。
 これもまた「なるほど」である(≪主題と変奏≫は、シェーンベルクがアメリカに亡命してから生んだ作品)。

 ちなみに、シェーンベルクの≪主題と変奏≫は、よく、「管弦楽版」がオリジナルであり、後日、吹奏楽版に改訂されたかのように思っている人がいるが、まったく逆である。つまり、当初からシェーンベルクが吹奏楽のために書き、あとになってから「管弦楽版」になったのである(フサの≪プラハのための音楽1968≫みたいなもの)。その過程も、中橋氏によって、パンフで、ていねいに解説されていた(何度も言うが、この中橋氏の解説が載ったパンフをもらうためにだけ行っても価値のあるコンサートである)。

 アンコールもまた、きちんと、当日のコンセプトにのっとっており、≪ベートーヴェンの主題による速い行進曲≫(ヒンデミット)、≪スターパズル・マーチ≫(小長谷宗一)という見事さだった(どちらも「変奏」的要素のある「マーチ」なのだ)。

 演奏も、必要最低限の人員で、実にきちんとした演奏を聴かせてくれていた。私個人としては、≪朝鮮民謡〜≫の冒頭、クラリネットのユニゾンの美しさがたいへん印象に残った。指揮の小久保氏も、アンコールまで含めて全14曲、しっかりとまとめていた。

 ただ、素人感想ながら、Trpのベルが、譜面台で遮断されてしまっており、音が、直接、客席に飛んで来ないため、少々イライラした(音量のブレンド具合の調整の結果だったのか?)。もっと譜面台を低くするか、斜めにセッティングして、ストレートな音を聴きたかった。ホルンも、ステージ平台でなく、もう一段上に乗って、音を響かせてほしかった。

 ・・・さて、かくして、たいへんユニークなコンセプトのコンサートを実現させているガレリアWOだが、問題は、これからである。

 当日、会場に来ていた聴衆は、おそらく、出演者の家族・知人・生徒と思しき人たち、そして、コンクール課題曲を目当てに来たのが明らかな中高生たち・・・そういった人々が、ほとんどであったように見受けられた。

 もちろん、それ自体は悪いことでも何でもないが、ガレリアWOの当事者たちは、それで満足であろうか。お節介を承知で言えば、これほどきちんと考え抜かれ、見事な解説を掲げたコンサートが、このままでいいのだろうか。

 かといって、「では、どうすればいいのか」と聞かれれば、偉そうなことを言う割りに、私自身にも、妙案があるわけではない。ただひたすら、このような原稿を書いて紹介し、口コミで広げる・・・それくらいしか、いまのところは、思いつかない。

 ただ、当日、行ってみて思ったのは、ここまでコンセプトがしっかりしたコンサートなのだから、先述『題名のない音楽会』ではないが、一種のレクチャー・コンサートのようにしても、いいのではないかと感じた。

 つまり、曲ごとでなくてもいいから、たとえば、今回だったら、第1部では途中2回くらい、第2部では最初だけ・・・程度でいい。指揮者、あるいは、中橋氏がステージに登場し、簡単な解説をして、そして演奏するのである。

 おそらくメンバーは「自分たちは音楽のみを表現しているのであって、それ以外の要素はいらない」と感じるかもしれない。「高校生の定演や文化祭じゃないんだから」と、怒るかもしれない。だが、料金をとって開催している以上、聴衆の理解・満足を追求することも必要だと思うのだ。人前で何かを表現し、ギャラを得る職業にとっては、演歌でもジャズでもクラシックでも吹奏楽でも「お客様は神様」なのである。

 もしかしたら、そういった解説が面白くて、それを期待して通う聴衆も生まれるかもしれない。それだって、いいと思うのだ。課題曲目当てに来た中高生が、それ以外の「何か」に目覚めるかもしれない。これに対して「それらは、パンフ解説を読んでくれ」というのでは、お客様本位とは言えない。
 吹奏楽だって、聴衆があって成立するはずだ。郵便局も、民間宅配業者と対決・競争している時代である。もっともっと、舞台上から客席に働きかけるべきではないだろうか。
 ちょっと言い過ぎたかもしれない。

 今後、多くの人が、ガレリアWOのコンサートに通って、吹奏楽の、いや、「音楽」の知的な面白さに目覚めてくれることを願ってやまない。

 次回、第3回定演は、2005年9月4日(日)14時〜、東京・大田区民ホール・アプリコにて。テーマは「英国吹奏楽の系譜」だそうだ。

■ガレリア・ウインドオーケストラHP http://sound.jp/galleriawind/index.html
 
※話題の中橋氏による曲解説が載ったパンフは、上のガレリアHPで読むことができます。チェックせよ!(BP編集部)


■プログラム (※太字はCDへのリンクあり)

レイモンド服部/コバルトの空
南俊明/マーチ「春風」(課題曲)
佐藤俊介/サンライズマーチ(課題曲)
團伊玖磨/祝典行進曲
上岡洋一/秋空に
坂井貴祐 /セレモニアルマーチ
松尾善雄/パクス・ロマーナ(課題曲)
高橋宏樹/ストリート・パフォーマーズ・マーチ(課題曲)
出塚健博/リベラメンテ 吹奏楽による(課題曲)
J.B.チャンス/朝鮮民謡の主題による変奏曲
J.バーンズ/パガニーニの主題による幻想変奏曲
シェーンベルク/主題と変奏 op.43a

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