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スペシャル:石本和冨

WONDERFUL WORLD
石本和冨の“これを聴かねば!”吹奏楽掘り出し名盤プレビュー

No.4

 2006年の吹奏楽コンクール全国大会CDを聴く! 
大学・職場・一般編

 2005年度の全国大会では、「まるでソニーのLP時代だな」と、誰もが思った大学&職場の部。全国大会に出場できたのに、音が市場に出回らないという、受難の年でした。2006年度は何とか全出場団体が収録され、改善されたのですが、それでも「大学・職場の部は自由曲のみ収録」という制約がつきました。生で聴いていないので、CDを聴いての自由曲中心のコメントになります。一般の部は金賞受賞団体は課題曲が収録されているので、それにも触れたいと思います。


■大学・職場編I
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1024/

 東海代表の静岡大学の「リコイル」は、シュワントナー作品独特の「緊張感」を見事に保っています。若干「ん〜、ここは息のスピードが遅くなっちゃったから、甘めになってしまったな」と感じる箇所もありますが、全体的な印象は好ましい演奏です。

 関西代表の立命館大学 「スペイン狂詩曲より祭」は、“あらま、これで銀賞か”と思ってしまう、色彩感に溢れた演奏です。近年演奏される機会の多いラヴェルの「スペイン狂詩曲」ですが、この演奏は私としてはかなり上位にランキングされています。中間部の気だるさの表現は実に見事。この部分は、聴くだけで練習になるので、是非聴いていただきたいと思います。
 音楽の流れもあざとさを感じさせない自然な流れで、聴いていて心地良いですね。強奏部でもうるさくは感じません。後半で奏者の興奮のものによる、フライングがありますが、これは逆に「奏者の熱い想い」が伝わってくるプラス要素になっています。

 東関東代表の神奈川大学は、難曲の「残酷メアリー」を選んでますね。
 貫禄を感じる演奏ですが、特筆すべきはEuphのsolo!「なんですか? あなたのその素晴らしすぎる音色は!」と、聴いた誰もが驚愕する事、間違いなし。賛否両論ある田村文生氏の作品ですが、「こういう曲は嫌い」と思っている人も、このEuphだけは絶対聴いて下さい! 特にEuph担当の中学生・高校生は必聴です!「Euphってこんなにも魅力溢れる音が出せる楽器なんだ」と、実感するでしょう。
 全体の演奏も緊張感に満ち溢れた、素晴らしいものです。各楽器の使い方が非常に優れている田村文生作品なので、「こういう楽器の組み合わせは、こんなサウンドになるんだ」と、勉強になる面も非常に多いです。

 関西代表の龍谷大学には、脱帽です。酒井格氏の作品を広めてくれた実績には、心から「ありがとう!」と言いたいです。この演奏「波の通り道」は素晴らし過ぎて、“どこがこういう感じで”とうことを書きたくありません。管・打楽器の持つ魅力を最大限に発揮した名演です。

 西関東代表の文教大学は、アーノルドの「交響曲第4番より」。この曲は今後様々な団体が取り上げる事になると思います。2006年に亡くなったアーノルドですが、管楽器の扱い方が非常に煌びやかなので、菅・打楽器編成による吹奏楽という形態には非常によくはまります。全体的にゴージャスなサウンドですが、強奏部で荒くなることもなく、ギリギリの段階で止めているので、聴いていて心地よいですね。

大学・職場編II
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1025/


 大学の部のトリは、東京代表の駒澤大学。トリに相応しい、見事な演奏を披露でてくれました。「ほぉ、今年は幻想交響曲か」と、少し意外な感じを持ちましたが、この演奏で「コンクールは曲ではない。いい演奏をする事が第一だ」と語ってくれています。ちょっと気が早い「何かお薦めの、いい自由曲はありませんか?」の質問を受ける季節に入りましたが、私は「今の編成で最高のサウンドが得られる曲がそのバンドにとっての「いい曲」だ」と思っています。
 さて、この演奏で注目すべきは「怒りの日」の部分の低音楽器群の粘り方と、終了直前のTrbの歯切れの良さです。私自身も幻想交響曲が好きなので、色々なオーケストラのCDを持っていますが、この2箇所については、この演奏の方が好きです。


 職場の部ですが、CDを聴いた時一番最初に感じたのは、「今までの様な歴然とした差は感じられないな」という点です。

 九州代表のブリジストン吹奏楽団久留米は、ゴージャスなサウンドで、聴いていて非常に心地よかったです。「ローマの松」は、スタミナが切れると台無しになってしまう曲ですが、最後までバテず、見事なアッピア街道の松を描いていました。Trp・Trb奏者にはぜひ聴いていただきたい演奏です。

 東海代表のヤマハ吹奏楽団浜松は、注目を浴びている作曲家、清水大輔氏の「すべての答え」を自由曲にしていました。今までに余り例を見ない独特の書き方をしている作品で、聴いているうちに、すっかり清水ワールドに引き込まれてしまいました。演奏も優れていると、私は思うのですが・・・。私の中では金賞です。この作品も、今後様々な団体が取り上げる曲となるでしょう。

 東北代表のNTT東日本東北は、面白い作品を自由曲としていました(吹奏楽のための「おてもやん」「もぐら追い」/小山清茂)。Euphのsoloには心から拍手したいと思います。 これまた、Euph担当の人にはぜひ聴いてもらいたいサウンドです。課題曲を聴いていないので、その点はコメントできませんが、私はハマッてしまいました。

 関西代表の阪急百貨店は、「あら、珍しい選曲だ」と感じましたが、サウンドも過去の同団と随分変わっていたので、いい選曲だと思います(「三都市物語」より <大阪> 船渡御絵巻/杉浦邦弘
)。Hrnの雄叫びは見事! 中間部の木管群の豊な響きは、さすがです。これも私の中では金賞です。


一般編I
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1026/


 一般の部ですが、2006年に関しては、職場の部同様、こちらも「歴然とした差はないような・・・」と感じましたが、一般の部はプラス「やけに攻撃的な演奏が多い」と思いました。

 東関東代表の土気シビックウインドオーケストラは、課題曲が実に素晴らしい! 大・職・一般でしか聴く事のできない課題曲Vですが、「はぁ〜」とタメ息しかでません。その場面で主張される楽器が浮き上がるのは当然ですが、周りのパートもしっかりと生きており、理想の演奏の一つでしょう。曲的にやや「攻め」の姿勢が必要ですが、それがいい意味で出ています。
 自由曲の「木星」ですが、こちらは課題曲とは対照的に、しっとりとした演奏。2004年の非常に豪快だった駒澤大学の演奏とは全く異なり、大人の雰囲気を醸し出しています。

 西関東代表の川口市・アンサンブルリベルテ吹奏楽団の演奏は、自由曲「鳳凰が舞う」に注目。細かい部分でもアンサンブルは完璧に近く、「パート内で合うのは当たり前」という、考えれば当然の事(しかしこれが実際に演奏するとなると、非常に難しいです)がしっかりと出来ているので、合奏は「ほぁ〜、こんなサウンドになるんだ」と、実感させてくれます。いい意味での勢いがあり、名演と言えます。
 上記で「パート内で合うのは当たり前」と書きましたが、多くの中学・高校のバンドは「合奏時がパート練習」となっているので、「パー練は部品を作成する時間、合奏はその部品を組み立てて製品を創る時間」というのを忘れないで下さいね。これを意識するだけで、大分練習内容が変わってきます。リベルテの演奏は聴くだけでも練習になるので、普段の自分達のバンドの演奏を録音した後、リベルテの演奏を試しに聴いて、「如何に各パート内での合わせが大事か」を理解した上で、再度その点を意識しながら、改めて録音して、それを聴き比べて下さい。必ず「これ、本当にウチらの演奏?」となるはずです。

 東北代表の大曲吹奏楽団は、課題曲「パルセイション」がやや淡々とした演奏ですが、この曲は「あっさり」と「コテコテ」のどちらかになる曲なので、興味深く聴く事ができます。「小塚ワールド炸裂」を期待された方は、肩透かしをされたように感じるでしょうが、自由曲「ゴシック」の方で炸裂していますので、そちらで「小塚ワールド」をご堪能下さい。

一般編II
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1027/


 西関東代表の川越奏和奏友会吹奏楽団も、素晴らしい課題曲Vを披露してくれています。土気シビックと聴き比べると、「同じ曲でもこういう違いが出てくるんだ」と実感できると思います。
 自由曲「祝典のための音楽/モートン・グールド」は、ゴージャスかつ熱い「サトマ・ワールド」にどっぷりと浸れます。個人的にも佐藤氏の指揮は素晴らしいと思っているので、中学・高校の顧問の先生方には、ぜひブレーンさんから発売されているDVDも見て下さい。この「祝典のための音楽」も、これから演奏する団体が増えると思います。


   ■(大学・職場・一般編)
    第54回全日本吹奏楽コンクールライブDVD

   http://item.rakuten.co.jp/bandpower/dvd-9170/


 東関東代表の横浜ブラスオルケスターは、やや攻撃的な演奏ですが、これも聴いていて気分がすっきりする演奏です。「やるならトコトン!」の部類に入りますが、しっかり歌い上げている部分もありますので、その対比がスパイスとなって、聴く人の心に残る演奏と言えるでしょう(陽が昇るとき/高 昌帥)。


 関西代表の創価学会関西吹奏楽団は、課題曲はオーソドックスな演奏ですが、「お手本」とも言えます。2006年は課題曲Iを取り上げたバンドが多かったと思いますが、課題曲Iをやったバンド(特に中学生・高校生)は自分達の演奏と、この演奏を比べて下さい。自分達の欠点がわかると思います。自由曲「科戸の鵲巣/中橋愛生」も、春日部共栄高等学校の若さ溢れる演奏と対比できる、大人の演奏になっています。歌い方など、プレイヤーにとって非常に参考になりますので、これもぜひ聴いていただきたい演奏の一つです。

(2007.03.28)

 
石本和冨プロフィール:
Ishimoto Kazufumi

自己を見つめ直すための長い旅を終えて、2007年1月に再び吹奏楽界に舞い戻ってきた伝説の吹奏楽スーパーバイヤー。アメリカをはじめとする多くの吹奏楽関係者とのネットワークを駆使し、世界中から新旧の吹奏楽作品をチェック、独自の視点で、吹奏楽ファンのための作品を紹介し続けることを自らの使命とする男。自身もテューバを吹きで、ここ数年はスクールバンドの指導なども行なっており、現場を知り尽くした者だからできる、曲選びや演奏のアドバイスには高い評価を得ている。
 ちなみに、今や伝説となった「ヨーロピアン・ブラスバンド選手権1992」に収録されているスパーク/ドラゴンの年を、「鼻血ドラゴン」と名付け、型破りな大量発注枚数でメーカーに再プレスさせ、このCDを日本全国に行き渡らせたのも実は彼だったり、アンサンブル・コンテストで人気の高いG.リチャーズ「高貴なる葡萄酒を讃えて」が収録されたロンドン・ブラス演奏のCDを廃盤から救い出したのも、実は彼なのである。その他、アメリカ海兵隊バンド「5枚組ボックス」など、ライナーノーツの執筆も多数あり。吹奏楽ファンにとって、実に頼りになる人物なのである。

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